第17話 シュラスコ


「シュハスコは行っといた方がいいですよね」

 日本でも有名なシュラスコは、実は現地ではシュハスコと発音する。今日は一日オフの筈だったが、クリスティナさんは気を利かせて私を夕食に誘ってくれたのだ。勿論私にいなやはない。



 午后八時前の店内に客の姿は疎らだった。

 串に刺さった種々いろいろな肉をサーヴする店員たちが卓子テーブルの間を縫って廻る。大人しく肉を待つ私を後目しりめに、クリスティナさんは席を立って中央のカウンターへ向かった。其処にはサラダやハム、チーズ、デザートに寿司までが絢爛とならべられている。変わり種としては、パルミット。椰子の新芽だ。見た目や食感は筍を少し柔らかくしたもの、と云えば近いか。

 皿一杯に、誇らしげに山と積んで帰ってきたクリスティナさんは、

「私は肉よりこっちがいんです」と言った。


 ビールは南極アンタルチカブランド、はオリジナウ。癖のない味は日本人に合いそうだ。グラスに注いだ途端に凍るほど、極限まで冷やされている。ブラジルのビールは冷たさに懸けては世界一かもしれない。

 キンと冷たいビールを一口飲んだところで、私も戦闘開始だ。


 ずはフィレ・ミニオン。次いで、アウカトラ。

 いずれもサーロインに相当するらしいが、日本よりは脂が少ない。それでも十分柔らかくてジューシー。味付けはシンプルに、塩。肉の周りに岩塩の粒が光っている。

 少し趣向を変えて、コステラ。豚のアバラだ。骨からこそぎ取って、こちらはお好みで甘めのソースを掛けてくれる。


 だが何と云ってもシュラスコの花形はピッカーニャ。これぞ肉。レアの部位を指して削ぎ落してもらう。血の滴る赤身の周囲ぐるりにはたっぷり脂。霜降りとはまた違う肉の旨味だ。ランプの辺りに相当するらしいが、赤身に白い脂を纏った見た目は日本のそれよりもっと肉々しい。



 入れ替わり立ち替わり、次々と串を持った店員がやってくる。羊肉、手羽先、心臓ハツ、ソーセージ、チーズ入りの肉に大蒜ニンニクをたっぷり載せた肉。

 肉だけではない。パスタに、リゾットに、ポテトに、焼きチーズ。うっかりすると、もう腹に入り切らないほどの量が皿の上に積み上がる。もう無理と思ったところでやってきた大蒜ニンニクバターパンを取ってしまった。困ったことにこれがまた旨い。


 歩合制なのだろうかと思うほどに、彼らは熱心に自分の持つ肉や料理を勧めてくる。あっと云う間に満腹だ。サイドメニューを取らないでよかったと思う。


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