第28話
「なあ、ミモレ。中央公園で花見をしないか? 」
「姉さん、良いですね」
テレビでは桜が三分咲きだと言っていた。
学校帰りにも桜のつぼみが膨らんでいるのを、ミモレは見ていた。
「誰呼ぶ?」
スカーレットはスマホを取り出した。
「えっと、ちひろちゃん」
ミモレは嬉しそうに答えた。
「後は、一条と高田だな」
スカーレットのラインにも登録されているらしい。
「姉さん、それはちょっと・・・・・・」
ミモレの制止も聞かず、スカーレットは一条と高田にラインを送った。
<土曜日の10時から中央公園で花見だ。来い>
「私もちひろちゃんに」
ミモレもスマホを取り出すとちひろにラインを送った。
<土曜日の10時くらいから、中央公園でお花見しませんか?>
すぐに二人のラインが鳴った。
<OK!>
高田は相変わらずラインではのりが軽い。
<了解!>
一条も返信が早かった。
<分かりました>
ちひろはおとなしい感じで、笑顔のスタンプが添えられていた。
「お花見って言ったら、ちらし寿司かな?」
ミモレの言葉にスカーレットが反応した。
「ミモレが作るのか?」
「はい!!」
金曜日の調理部で、ちひろとミモレは桜のシフォンケーキを作った。
「お花見、楽しみだね」
ちひろがそう言うと、ミモレが頷いた。
「うん」
そして週末になった。
天気は快晴。
風もほとんど無く、絶好の花見びよりだった。
中央公園でミモレとスカーレットが皆を待っていると、一番最初に来たのは一条だった。
手には、高級そうな一見ワインのようなジュースを抱えている。
そして、大きなレジャーシートを抱えていた。
「一条さん、ありがとうございます」
ミモレがそう言うと、一条は笑って答えた。
「いいえ、料理は皆が持ってくると思って持って来てないんですけど大丈夫ですか?」
一条の言葉にミモレが返事をする。
「はい、沢山作ってきました!」
ミモレはそう言って、大きな風呂敷を差し出した。
話をしているうちに、ちひろと高田がやってきた。
「あ、あの私ちひろって言います。ミモレちゃんの友達です。あ、こんにちはお姉さん」
ちひろはビクビクしながら一条と高田に挨拶をした。
スカーレットとは、すでに知り合いになっていたらしい。
「一条です」
「高田です」
「噂の・・・・・・いえ、何でも無いです」
ちひろは二人を見比べて、ミモレにウインクした。
「結構人がいますね」
高田がそう言うとちひろが頷いた。
「本当。レジャーシート、広げられるかな? 」
ミモレもちひろの言葉に頷いた。
「この辺が良さそうですよ」
そう言って一条が桜の木の下にレジャーシートを広げ始めた。
「気持ちいい」
ミモレはレジャーシートに座った。
五人で丁度いい大きさだった。
「さて、料理を並べましょうか」
ミモレとちひろは料理部で作っておいたお弁当と、シフォンケーキを取り出した。
「じゃあ、俺たちは飲み物を」
一条と高田は紙コップを人数分出して、ジュースを注いだ。
「いただきます!!」
五人はそう言って料理をつまみ始めた。
「美味しい! 料理上手ですね、ミモレさんちひろさん」
「ありがとう、嬉しいね、ミモレちゃん」
「うん」
「ところでアルバイトって大変じゃないですか?」
ミモレが聞くと、一条が笑って答えた。
「いろんな人が来るからね。でも、楽しいよ」
今度はちひろが一条に訊ねる。
「大学って、どんなところですか?」
「僕は文学部だから、小説を分析したり、当時の文化を研究したりしてるよ」
「高田さんは、一人暮らし長いんですか?」
ミモレが聞くと、高田は頬を掻いて答えた。
「高校からかな。僕の実家は田舎だから、勉強頑張りたくて都会に出てきたんだ」
「へー。偉いんだな、高田」
スカーレットが言った。
「ところで、二人はミモレの何処が好きなんだ!?」
スカーレットがいきなり本題に入った。
「姉さん!!」
ミモレが慌ててスカーレットの口を押さえる。
「いつも一生懸命なところが可愛いですね」
一条は照れもなく答えた。
「えっと、優しいところかな」
高田は照れて下を向いたまま答えた。
ミモレの顔は真っ赤だった。
「ミモレちゃん、大丈夫?」
「うん、ちひろちゃん」
「で、ミモレはどっちを選ぶんだ?」
スカーレットは遠慮せず訊ねてくる。
「えっと、その、私、選べないです・・・・・・」
ミモレは泣きそうな顔で答えた。
すると、一条がミモレの頭をポンポンと軽く叩き微笑んだ。
「まだ、決めなくても大丈夫だよ」
高田はその様子を見て、慌てて言った。
「あの、実家からの差し入れのお裾分けは、僕を選ばなくても続けるから」
ミモレが高田の方を見ると、高田は付け足すように言った。
「嫌じゃなければだけど」
「ありがとうございます」
ミモレが笑った。
「さあ、ミモレちゃん渾身のちらし寿司、食べましょう!」
ちひろはそう言うと、携帯用の小さな取り皿をカバンから出して、みんなにちらし寿司をとりわけた。
「美味しい!」
「良かった」
皆はワイワイと世間話に花を咲かせた。
スカーレットはいつの間にかノンアルコールカクテルを飲んでいた。
「ミモレ、良い仲間に恵まれて良かったな」
「はい! 姉さん」
ミモレは嬉しそうに答えた。
料理を食べ尽くし、桜を満喫したところでそろそろお開きにしようという話になった。
「ちひろちゃん、ミモレちゃんは学校でもこんな感じなの?」
一条が訊ねるとちひろが答えた。
「ううん、もっと大人しいかな」
「そうなんだ」
一条はミモレのはしゃぐ姿を見て、微笑んだ。
高田は一条の余裕に、すこし焦りを感じた。
「ミモレさん、今日はご馳走ありがとう」
「いいえ、喜んで頂けたなら嬉しいです。高田さん」
高田は照れて俯いた。
「それじゃ、今日はこれでおしまいにするか」
「そうですね」
スカーレットの声に、皆が帰り支度を始める。
ミモレ達は、ちひろと一条と高田に別れを告げ、家に帰った。
「ミモレ、あんまり待たせると一条も高田もかわいそうだぞ」
スカーレットが珍しく穏やかに言った。
「はい、分かってはいるんですが、やっぱり付き合うってハードル高くって」
ミモレがそう言うとスカーレットは話し続けた。
「私のおすすめは一条かな。大人だし、ミモレの扱いが上手い」
「そうですか。でも、高田さんにはいつもお世話になってるし」
「世話になってるのと好きは違うだろ? 一条と話している時は表情が違うぞ、ミモレ」
「・・・・・・はい」
ミモレは決心したようだ。
「私、一条さんとお付き合いしてみようと思います」
「そうか、高田はかわいそうだが仕方ないな」
「・・・・・・高田さんも好きなんですよ」
「でも、恋愛感情じゃないんだろう?」
「それは・・・・・・」
ミモレはそこまで言うと黙ってしまった。
人と付き合う。
そんなこと考えたこともなかった。
サッキュバス界ではいじめられっ子で、好きなんて言われたのは初めてだった。
ミモレはスマホを開くと一条にラインをした。
<お付き合い、お試しで初めて見ても良いですか?>
すぐにラインが鳴った。一条だ。
<ありがとう、これからよろしくね>
そして、ミモレは高田に電話をかけた。
「高田さん、ミモレです」
「はい、どうしましたか?」
「あの、私、一条さんとお付き合いをすることにしました」
「・・・・・・そうですか。分かりました。教えて下さってありがとうございます」
高田の声が少し沈んだ。
「いいえ、あの、ごめんなさい。ありがとうございました。」
「でも、これからも友達でいてくれるかな?」
「はい、喜んで」
ミモレは電話を切ると、ため息をついた。
「決まったな、ミモレ」
「・・・・・・はい」
スカーレットはミモレにおめでとうと言ってから、ノンアルコールカクテルをミモレのグラスに注いだ。
「私にお付き合いなんて出来るんでしょうか・・・・・・」
ミモレが不安そうにスカーレットに聞くと、スカーレットは笑って答えた。
「大丈夫だよ、一条はその辺も慣れてそうだし」
ミモレはノンアルコールカクテルを飲み干した。
「ちょっと苦い・・・・・・」
「初恋の味って書いてあるぞ」
スカーレットはミモレが一条を選んだことに安心して、また笑みを浮かべた。
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