第26話
ミモレが風邪を引いた。
「まったく、人間の病気にかかるなんて、何してるんだか」
「姉さん、そんな風に言わないで下さい」
ミモレはくしゅん、とくしゃみをした。
布団に入って寝ていると、スカーレットが言った。
「じゃあ、下のコンビニで何か買ってきてやるよ」
「はい、ありがとうございます」
スカーレットが家を出ると、ミモレは学校に電話をした。
「はい、風邪を引いてしまって、今日はお休みします」
「お大事に」
「はい、ありがとうございます」
ミモレは熱を出したのは初めてだった。
一条と高田のことを考えすぎたのかも知れない。
「おい、買ってきたぞ」
「ありがとうございます」
スカーレットが買ってきたのはチョコレートやケーキ、オムライスなどいつものミモレなら好物だったが、風邪の胃には重すぎる物だった。
「ねえさん、今はあまり食べられません」
「そうか? じゃあ、ヨーグルトなんてどうだ?」
「それなら何とか」
ミモレはそう言うと、もそもそと布団から出てヨーグルトを食べた。
「薬、飲んでみるか? 一条と高田が心配して風邪薬くれたぞ」
「ああ、言っちゃったんですか?」
ミモレは力なくうなだれた。こんな弱ってるところを二人に見せたくは無かった。
ミモレはもらった風邪薬を飲むと、布団で横になった。
直に眠くなった。
「じゃあ、なにかあったらラインに連絡くれ」
「姉さん、行ってらっしゃい」
ミモレは一人になるとゆっくりと眠った。
「ピンポーン」
「・・・・・・はい」
お昼だ。ずいぶん眠っていたらしい。
玄関に出てスコープを覗くと一条が立っていた。
「こんにちは、具合大丈夫?」
「一条さん、なんでこんな時間に」
「今日は大学休講だったから、お見舞い」
「どうぞ、あがってください」
ミモレはそう言ってドアを開けた。
一条は買い物袋を抱えていた。
「おかゆとお味噌汁くらいなら食べられるかい?」
一条はそう言って台所に向かった。
ミモレはボンヤリとしたまま頷いて、布団に戻った。
一条は手際よく葱を刻み、梅干しを叩き、あっという間に葱の味噌汁と梅のおかゆを作った。「一条さん、お料理上手なんですね」
ミモレは布団から一条の背中を見ていった。
「はい、ミモレちゃん。出来たよ、熱いから気をつけてね」
「ありがとうございます、一条さん」
ミモレがふうふうしながら、おかゆと味噌汁を食べているのを一条は笑顔で見つめていた。
「美味しい?」
「はい、美味しいです」
ミモレは微笑み返した。
出汁がきいていて、やさしい味だった。
「じゃあ、俺はこの辺で帰るね」
「あの、ご飯作りに来てくれたんですか?」
「あ、スカーレットさんの買い物じゃ、ちょっと辛いかなと思って」
「・・・・・・ありがとうございます」
ミモレが頭を下げると、一条はミモレの頭を撫でた。
「ゆっくり休んで元気になってね」
「はい」
一条はそれだけ言うと、ミモレの家を後にした。
ミモレはまた薬を飲んで眠った。
次に目が覚めたのは夕方だった。
ずいぶん体は楽になっていた。
「ピンポーン」
「はい」
今度は高田が玄関に立っていた。
「これ、作ってきたんだ。口に合うと良いけど」
「わあ。レンコンのそぼろあんかけ、美味しそう」
「うん、ちょっと柔らかめの薄味にしてあるから」
「ありがとう」
高田は家に上がらずに帰って行った。
「ピンポーン」
今日はやけに来客が多い。
ミモレはカーディガンを羽織って出てみると、ちひろが立っていた。
「ミモレちゃん、家事大丈夫?」
「うん、洗濯物がちょっとたまってるかな?」
「じゃあ、やってあげる」
ちひろはそう言うと、洗濯機に洗濯物と洗剤、柔軟剤を入れた。
「ミモレちゃん、ごはんは大丈夫?」
「うん、一条さんと高田さんが作ってくれた」
「そうなんだ。二人ともいい人だね」
「うん」
ミモレはスカーレットの買ってきたケーキをちひろに出した。
「ありがとう、ミモレちゃんは食べないの?」
「私はまだちょっとかな」
そう言って、ミモレは布団に戻った。
「洗濯物出来たみたい。何処に干す?」
ちひろの質問にミモレが答える。
「お風呂場に干して下さい」
「うわ、けっこう際どい下着! ミモレちゃん意外・・・・・・」
「それ、姉さんのだよ」
ミモレは慌てて否定した。
「そっか、全部干せたよ」
「ありがとう、助かったよ」
「それじゃ、帰るね」
「うん、ありがとう」
ちひろが帰るとミモレは一人で呟いた。
「今日はいっぱい人が来たな。みんな優しかった」
ミモレが一息ついていると、スカーレットが帰ってきた。
「お疲れ! ミモレ、良くなったか!?」
「姉さん」
「おお、手作りの料理と洗濯。ミモレがやったのか?」
「ううん、ちひろちゃんと一条さんと高田さんがやってくれた」
ミモレは嬉しそうに笑った。
「そっか、良かったな、ミモレ」
「うん」
ミモレとスカーレットは、その日は早めに床についた。
「病気って、なんか大変だけどみんな優しかったな・・・・・・」
ミモレはそう呟いて眠ってしまった。
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