第25話

月曜日。

学校に行くとミモレはちひろに相談をした。


「ちひろちゃん、LINE交換って、何したら良いのかな?」

「どうしたの、ミモレちゃん?」

「実はね・・・・・・」


ミモレは高田と一条とのことをかいつまんで、ちひろに相談した。

「そっか、モテ期なんだね、ミモレちゃん」

「モテ期? うーぅ、いじめられることはあっても、モテた事なんて無いよ」

ミモレは頭を抱えた。


「でもさ、一条さんって待っててくれるって言ったんでしょ?」

「うん」

「あわてなくて大丈夫じゃない?」

「そうかなぁ」


ミモレが途方に暮れているとちひろが笑った。

「まだ、高田さんは告白されたわけじゃ無いんだし、今まで通りで良いんじゃ無い?」

「・・・・・・そうだね!」

ミモレはちひろの言うことに頷いた。


その日はなんだかソワソワしていたけど、普通の一日が過ぎていった。


帰り道にスマホが震えた。

高田からラインが来ていた。

<コンビニ側の公園脇の喫茶店まで出てこられますか?>

ミモレはちょっと考えてから返信した。

<いいですよ>


ミモレは公園脇の小さな古びた喫茶店に入った。

中には学生服の高田がいた。

「こんにちは、高田さん」

「こんにちは、ミモレさん」

ミモレは学生服の高田をしげしげと見た。いつもより少し、子供っぽい。


「あの、急に呼び出して済みません」

「いいえ、大丈夫です」

高田は少しうわずった声で聞いてきた。

「注文、何にしますか?」

「アイスティーをお願いします」

高田はそれを聞くと、奥に向かって手を振った。


店員が現れた。

「すいません、アイスティー二つお願いします」

「はい」


高田はミモレの目を見られずに、机をじっと見ていた。

「あの、高田さん、何か用事ですか?」

「はい、あの、一条さんとのデート、実は待ち合わせを覗いてしまいました」

それだけ言うと、高田は頭を深々と下げた。

「申し訳ありません」

「頭を上げて下さい」


「あの、それで、一条さんとミモレさんは付き合ってるんですか?」

「いいえ、そんなことないです。今のところは・・・・・・」

「良かった」

高田がそう言ったとき、アイスティーが運ばれてきた。


「いただきます」

「いただきます」

二人はアイスティーを一口飲むと、深くため息をついた。


「あの、用事ってそれだけですか?」

ミモレが微笑みながら聞くと、高田は耳まで赤くなって小さな声で言った。

「あの、僕、ミモレさんのことが好きです」

「はい!?」

ミモレは驚きのあまり、アイスティーを吹き出しそうになった。


「困りますか?」

「いいえ、あの、嬉しいんですけど・・・・・・今はそういうこと考えていなくて」

ミモレはストローを指でいじりながら俯いた。


「あの、一条さんから告白されてること知ってます」

「え!?」

ミモレが顔をあげると、高田は真剣な顔で言った。

「一条さんが自分で言ってました。長期戦覚悟だって」


「一条さん・・・・・・」

ミモレは急に降ってわいたモテ期を持て余していた。

「家だと、スカーレットさんに聞かれそうだから呼び出したんです」

「そうですね、姉は恋愛話大好きだから」

高田は残っていたアイスティ-を一気に飲み干した。


「僕もミモレさんと付き合いたいと思っていること、覚えておいて下さい」

「・・・・・・はい」

高田はそれだけ言うと、二人分のお会計を済ませた。

「あの、自分の分は自分で払います」

ミモレがそう言うと、高田は首を振った。


「今日は僕の勝手で呼び出して、済みませんでした」

ミモレは「ごちそうさまでした」とだけ言った。

高田は、いいえ、と返すとコンビニでバイトだからと、急ぎ足で去って行った。


「あらら、ミモレが二股?」

「どこから見てたの!? 姉さん」

丁度コンビニからスカーレットが出てきた。

タイミングの悪さにミモレは飛び上がりそうだった。


「で、高田と一条、どっちを選ぶんだい?」

「そんな言い方しないで下さい。わたしが人を選ぶだなんておこがましいです」

ふうん、とスカーレットは面白がるように笑った。

「笑い事じゃありません! 一条さんにも高田さんにもお世話になってるんです!」


ミモレが怒ると、スカーレットは驚いた。

「へぇ、ミモレが怒るなんて珍しい」

「それにしても・・・・・・どうしよう・・・・・・」

ミモレは泣きそうな顔で困っていた。


「どっちが好きか、簡単な話じゃないのかい?」

スカーレットは買ってきていたパピコを二つに分けて、一つをミモレに渡した。

「どっちもいい人で選べないんです・・・・・・」

ミモレは続けて言った。

「私なんかが選ぶなんて」


ミモレは受け取ったパピコをくわえて、途方に暮れていた。

「モテ期、恐ろしいです・・・・・・」

「深く考えるなって」

スカーレットはミモレの頭をポンポンと軽く叩いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る