第29話

「付き合うって、どうすればいいんでしょう、姉さん」

ミモレは困惑していた。

「そんなの、やっちまえばいい」

スカーレットはこともなくそう言った。


「姉さん! そんな言葉不潔です!」

「はい、はい」

ミモレが泣きそうになっているのを見て、スカーレットは助け船を出した。

「一条に聞いてみな」


「はい、そうします」

ミモレは一条に、ラインを送った。

<付き合うって、どうすれば良いんですか?>

ラインはすぐには鳴らなかった。


「そろそろ、学校の時間です」

ミモレはそう言って、カバンを手にした。

「はい、行ってらっしゃい」

スカーレットはいつも通り手を振った。


「おはよう、ちひろちゃん」

「おはよう、ミモレちゃん」

学校に着くと、ミモレはちひろにお花見の感想を言った。

「楽しかったね」

「うん」


ミモレは一瞬悩んだ後、ちひろに言った。

「それでね、お付き合い、一条さんとしてみることにしたの」

「そうなんだ、勇気だしたね、ミモレちゃん」


授業が終わると、二人は調理部の部活を始めた。

今日はプリンを作ることにした。

「ミモレちゃん、一条さんって格好いいね」

「うん。なんで私なんか選んだんだろう・・・・・・」

ミモレは卵液を裏ごしながら言った。


「そんな言い方しないの! ミモレちゃん」

「うん、ありがとう、ちひろちゃん」

二人は卵液と牛乳を混ぜて、バニラエッセンスを加えた。

蒸し器の用意が出来ると、カラメルを入れた小さめの瓶に、プリン液を入れて蒸した。


「ミモレちゃん、時間と温度気をつけて」

「うん」

「やっぱり、一条さんにもあげるの?」

「うん、帰りにあげようと思ってる」

「じゃあ、頑張って作ろう」


ミモレとちひろは火傷に気をつけながら、プリンを取り出した。

すが入ることもなく、プリンは美味しそうにできあがっていた。

「じゃあ、今日はこれでおしまい」

二人は片付けを済ませると、バイバイ、と手を振った。


ミモレはラインで一条に、ちょっと渡したい物があると送った。

スマホが震えた。

<了解、コンビニの外で待ってるよ。時間は何時くらいになる?>

ミモレのラインに一条からの返事が届いた。

<10分後くらいです>

ミモレもラインを返す。


そして、10分後、ミモレはコンビニの前にいた。

一条がコンビニから出てきた。

「あの、ごめんなさい、お仕事中に」

ミモレがそう言うと、一条は微笑んだ。

「いいんだよ、少しだけなら」


「あの、これ調理部で作ったので良かったら食べて下さい」

そう言って、ミモレは小さな紙袋に入った二つのプリンを一条に渡した。

「ありがとう、ミモレちゃん」


「あの、高田さんは? いるんですか?」

ミモレは一条に聞いた。

「ああ、ちょっと落ち込んでる」

一条は申し訳なさそうに答えた。


「そっか・・・・・・」

ミモレは罪悪感で俯いた。その頭を一条が撫でる。

「ミモレちゃん、元気出して。高田だって、すぐ元気になるよ」

「あ、はい」

ミモレは顔を上げた。


そのとき、ふいに一条の顔が近づいた。

ミモレが硬直していると、一条はミモレの額にキスをした。

「俺のことだけ考えて欲しいな」

一条は照れながらそう言った。


ミモレはうわずった声で答えた。

「あの、こういうの、困ります」

「駄目?」

一条が可愛らしく首をかしげた。


ミモレより、よっぽどサキュバスに向いているんじゃないかとミモレは思った。

「おい、そろそろ休憩から戻れよ」

コンビニの中から声がした。


「はい!」

一条は元気に答えた。

「ありがとう、ミモレちゃん」

一条はミモレの頭を撫でてコンビニに戻っていった。


ミモレはぼうっとしたまま、自分のおでこを撫でていた。

「唇って、あったかくて柔らかいんだ・・・・・・・」

そう呟いてから、ミモレは真っ赤な顔で家に帰っていった。

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