第22話

「ふあ~」

「おはよう、ミモレ」

「おはよう、姉さん」


いつも通りの朝だった。

スカーレットはお腹が空いていたのか、トーストを囓っていた。

ミモレは、パジャマから制服に着替えると、朝ご飯を作り始める。

「姉さんも食べますか? 」

「当然、食べるよ! 」


スカーレットは裸のまま答えた。

一応、寝るときはパジャマを着るようミモレがお願いしてみたけれど、一笑に付されてしまった。

「姉さん、朝食を食べたかったら、服を来て下さい」

「はいはい、うるさいなぁミモレは」


そう言いながらスカーレットはまた、おへその見えるTシャツと、パンツが見えそうなミニスカートを身につけた。

「あ、ヨーグルト無くなっちゃってる」

「ごめん、食べちゃった」

ミモレはため息をついてから時計を見た。

6時、まだ時間がある。

「ちょっとコンビニに行ってきます」

「はいはい」


ミモレは財布とマイバッグを持って、高田と一条が務めるコンビニに走った。


「おはようございます」

ミモレを見つけると、一条が笑顔で挨拶してきた。

「おはようございます」

ミモレは寝癖だらけの髪を手ぐしで整えながら、照れくさそうに一条に挨拶をした。


「ヨーグルトは・・・・・・あった」

ミモレは買い物かごに入れるとすぐにレジに行った。

「ヨーグルト、好きなの?」

一条が話しかけてきた。

「はい、私より姉の方が好きみたいですけど」

ミモレはそう答えてお会計を済ませた。


「ミモレちゃんは、高田と付き合ってるの? 」

一条が不意に聞いてきた。

「ふぇぇ!? そんな、とんでもないです、男の人と付き合うだなんて」

ミモレは赤くなって両手を振った。


「良かった、それなら今度、動物公園に行かない? チケット二枚もらったんだ」

そう言うと一条はミモレの手に、半ば強引にチケットを握らせた。

「動物園ですか? 楽しそうですけど、なんで私ですか? 」

一条は照れながら言った。

「ミモレちゃん、アライグマとか好きそうだと思って」


「アライグマ? 大好きです」

ミモレが微笑むと、一条の顔が真っ赤になった。

「それじゃ、今週末十時に駅前で待ち合わせで良いかな? 」

「えっと、まだ決められません」

一条は困った顔をしてから、閃いた表情を浮かべた。


「ミモレちゃんてライン出来る? 」

一条はスマホを取りだした。

「はい、一応持ってます」

ミモレもスマホを取り出す。

「じゃあ、ライン交換しよう」

「それくらいなら」

二人はラインの交換をした。

友達の欄に一条と表示された。


ミモレはヨーグルトと動物公園のチケットをマイバックにしまうと、家に戻った。


「おかえり、ミモレ」

スカーレットは退屈そうにしていた。

「一条さんに、動物公園に誘われました」

ミモレはスカーレットにそう言うと、ため息をついた。

「ほほう、デートか、いいね、行ってきな。つーか行ってこい。命令だ」


「デート!? 」

ミモレは、首をぶんぶん振って否定した。

「ただ、チケットが余ってただけですよう」

「洋服は選んでやる。いつものウニクロじゃあ格好つかないだろう」

スカーレットは自分のクローゼットから、なるべく地味なワンピースを選んだ。


「デートは何時だ? 」

スカーレットは白いワンピースをミモレに当てると、うん良いねと、頷いた。

「デートじゃ無いですけど、待ち合わせは今週末の10時、駅前です」

ふと、スカーレットは気になって聞いた。


「高田はこのこと知ってるのか? 」

「いいえ、なんで高田さんが出てくるんですか? 」

かわいそうに、とスカーレットは呟いてから、にやり、と笑った。


「まあ、楽しんでおいで」

「うう、男の人と二人きりなんて気が乗らないです」

ミモレはそう言って、動物公園のチケットをじっと見つめた。


スカーレットは、ミモレが学校に行った後、高田の家のポストにメモを入れた。

<ミモレ、今週末の10時に動物公園でデートするって、一条と。スカーレットより>


「高田、いままで頑張ってミモレを応援してくれてたもんな」

スカーレットは余計なお世話をして、満足していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る