第16話

料理部には柊さんしか居なかった。

「ミモレちゃん、料理部に来てくれてありがとう。今日は見学?」

「ううん、私料理好きだから入るつもりです」

ミモレはきちんと整理された調理室を見てため息をついた。

「料理部って、柊さん一人だけですか?」


ミモレがそう言うと柊さんは首を振って暗い表情を浮かべた。

「部長がいるんだけど、ちょっと訳ありでね」

「ふーん、そうなんですか」

柊さんはそこまで言うと、エプロンを着けて粉をはかりだした。

「今日はパウンドケーキを作ろうと思ってるんだ」

「パウンドケーキ! 美味しいですよね」

ミモレは好物のパウンドケーキを作ると聞いて嬉しくなった。


「計量して、バターと砂糖を混ぜてっと」

柊さんは小さな体で、ボールの中のバターと格闘している。

「ミモレちゃんもやってみる?」

「うん」

ミモレは渡されたボールとへらで上手にバターと砂糖をすり混ぜた。

「ミモレちゃん上手だね」

「えへへ」

「あとは卵と粉を入れて、予熱したオーブンで焼けば完成」

柊さんはテキパキと作業をこなす。


「料理部一人でさみしかったからミモレちゃん入ってくれてすごい嬉しい」

「わたしも料理って一人でしか、したことなかったから嬉しい」

サッキュバス界では料理はあまり自宅でしない。

栄養は人間からとってくるし、あまり需要がないのである。

二人は料理について語り合っていると、オーブンからいい匂いがしてきた。

「ここで開けちゃうとまだ駄目なんだよ、もうちょっと焼かないと中が生なんだ」

柊さんが真剣な表情で言う。ミモレは頷きながらオーブンの中を覗いた。


「そろそろよさそう」

そう言って、柊さんは焼けた二つのパウンドケーキに竹串をさして、中まで焼けていることを確認した。

「はい、ミモレちゃん、いっこどうぞ」

「ありがとう柊さん」

「ちひろでいいよ」

「ちひろちゃん、ありがとう」

ミモレは嬉しそうにパウンドケーキを受け取ると、後片付けを手伝った。

ミモレとちひろは片付け終わると帰ろうとした。二人の帰り道は反対だった。


家に帰るとスカーレットの置き手紙があった。

「ひまだから、サッキュバス界に帰ります。スカーレット」

ミモレはため息をついた。これで地味に暮らせます。ありがとう神様。

ミモレは制服から部屋着に着替えると、まだ大量に残っているジャガイモをみてにっこりした。

「今日は肉じゃがにしようっと」

トントンとリズミカルに包丁を使う。

「高田さんにも持って行った方がいいかな」

山盛りの肉じゃがを見て、ミモレは思った。

「うん。美味しく出来たし持って行こう」

ミモレはタッパーに肉じゃがをいれると隣の高田さんの家に向かった。

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