第31話

朝が来た。

「あ、牛乳がない。買ってくるね」

「ありがと、ミモレ」

スカーレットは起き抜けの髪を手ぐしで整えながら言った。


「ミモレちゃん、おはよう」

「おはようございます、一条さん」

朝のコンビニで、ミモレは一条と会った。

「今日もヨーグルト?」

「いいえ、牛乳が切れちゃって」

ミモレは一条のレジに立つと、お財布から小銭を出した。


「今日の午後、学校終わってから時間あるかな?」

「はい、大丈夫です。何かありましたか?」

「えっと、たまには喫茶店でデートでもしたいなって」

「はい・・・・・・」

ミモレの顔が赤くなる。

一条は笑った。


ミモレは買い物を済ませて、家に戻った。


いつものように学校が終わった。

夕方、家の近くの喫茶店で一条を待つ。

ミモレは窓際の対面で二人がけの机を選んだ。


「ミルクティーをアイスでお願いします」

「はい」

店員さんに注文を告げると、ミモレは文庫本をカバンから取り出した。

約束の時間まで、あと30分あった。

本に夢中になっていると、喫茶店のドアについたベルが鳴った。

カラン、カラン。


「お待たせ、ミモレちゃん」

「いいえ、一条さん」

「何読んでたの?」

一条が荷物を置きながら、ミモレの前に座った。

「えっと、ライトノベルです」

「恋愛物だね、それ、俺も好きだよ」

一条はミモレが持っている文庫本の表紙を見ていった。


「はい、とっても可愛らしいですよね」

「うん。ところで、注文はミルクティーだけでいいの?」

「はい、一条さんは」

「どうしようかな、イチゴのパフェ頼んでも良いかな?」

「美味しそうですね! 私も追加で頼みます」


一条は店員さんを呼んだ。

「イチゴパフェ二つと、ホットコーヒーお願いします」

「はい」

店員は注文を聞くと戻っていった。


「ミモレちゃんは今日も元気そうだね」

「はい、元気ですよ」

「学校は楽しい?」

「はい」

一条とミモレは世間話をした。


「話が変わるんだけどさ、ミモレちゃんにお願いがあるんだ」

一条の声のトーンが、すこし下がった。

「はい、何でしょう?」

「高田と二人っきりで、部屋にいるの止めて欲しいんだ」

「あ、えっと、あの・・・・・・」

ミモレが焦った。


「あ、あの、浮気とか疑ってるわけじゃないんだけど、男と二人きりで部屋にいるって危ないよ」

一条は、気まずそうに言った。

「ミモレちゃん、無防備だからさ」

「一条さん・・・・・・」

ミモレは頷いた。


「よく、田舎からの差し入れ、分けてもらってるでしょ? 高田から聞いてるんだ」

「はい、良く頂いてます」

「うん。そのこと自体は良いんだけど」

一条はそこまでいって、コーヒーを一口飲んだ。


「手作りの料理とか高田にあげてるって聞いて、ちょっと嫉妬しちゃった」

一条は、あはは、と笑った。

ミモレはびっくりした。


「一条さんも嫉妬とかするんですか?」

「うん」

一条が頷く。つむじが見えた。可愛いとミモレは思った。


「パフェとコーヒーです」

そのとき店員さんが注文の品を運んできた。

ミモレの前にパフェが置かれた。

その後、一条はちょっと嬉しそうに、パフェを受け取った。


「女の子と一緒じゃないと、なかなか頼みづらくって」

一条は、そう言って頭を掻いた。

「一条さん、パフェ好きなんですか?」

ミモレはそう言ってから、聞いた。

「あの、女の子と良く一緒にお店に行くんですか?」

「妹だよ」


ミモレは意外そうな顔をした。

「そうなんですか」


「頂きます」

「頂きます」

ミモレと一条はそう言うと、パフェを一口食べた。

「美味しいね、ミモレちゃん」

「はい、一条さん。甘い物好きなんですか?」

「うん」


二人は一緒にパフェを突きながら、この前の花見の話や、コンビニのバイトであった面白い話をして過ごした。


「ごちそうさまでした」

パフェと飲み物を取り終わると、二人は声を揃えてそう言った。


「ここは俺が払うよ」

「いいえ、自分で払います」

「駄目だよ、ミモレちゃん。俺が払いたいんだ」

「・・・・・・分かりました。ごちそうさまです」


一条はお会計を済ませると、自分の荷物を背負ってから、ミモレの荷物を持った。

「一条さん、荷物重いですよ?」

「大丈夫だよ」

一条は、空いている手をミモレに伸ばすと、手をつないだ。

ミモレはその手を振りほどかなかった。

一条の手は大きくて温かい。


「ミモレちゃん、高田のことなんだけど、本当に二人きりにならないでね」

「はい、気をつけます」

ミモレは悪いことをした気分になった。

台所にはまだ3個、キャベツが転がっている。


「それじゃ、またね」

一条は、ミモレの家の前まで送ると、自分の家に向かって歩いて行った。

「はい、ありがとうございました。ごちそうさまでした」

「また、おいしいもの食べに行こうね」

一条は振り向いて、少し大きな声でそう言った。


「ふう、ただいま」

「おかえり、遅かったな。デートか?」

スカーレットは下着姿でゴロゴロと転がっていた。

「二人でパフェを食べただけです」

「そっか、楽しかったか?」


「はい」

ミモレはそう言うと、夜ご飯の支度を始めた。

「えっと、キャベツは煮浸しにしよう」

「もう、高田の分は作らないのか?」

「はい、一条さんに止めて欲しいと言われたので」


「そっか、高田もこれで終わりだな」

「そんな言い方、やめてください」

スカーレットの言葉にミモレが反応した。

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