私たちは忙しい。効率的貴族的発想。

「額縁に興味があるなら、他にもたくさんあるよ。亜人たちは多趣味だし。アクセサリーとか木工品とか、芸術品から実用的なものまで色々作ってる。それぞれの種族に得意分野があるんだ。機械生産じゃないから、効率化とは真逆だけど」

 キャスは言う。ビジネスの種が転がってると見て、翔は目を細めた。それを理解したのは、ガンタンもハツヒも同じだったのだが、立場が違っていた。


「面白そうじゃないか。良かったら調べてみないか?私たちはそういう不確実性が高いことが極めて苦手なのだ。もちろん翔やキャスの利益になってもならなくても調査料は別途支払う。私には私にしか出来ない仕事もあることだし」

 と、ガンタンは提案してきた。


 翔は知っていた。マーケティングの領域を超え、“自分たちが創りたい!世の中にあったら良い!”といったような「シーズ」に振り切ったスピリットから生まれた製品プロダクトがブレイクスルーする時、市場に爆発的なインパクトを持って迎えられるということを。たとえばスマートフォンがそうだ。マーケティングの文脈からは考えられない製品だったが故に、市場の思惑を超越し、爆発的なヒットにつながったのだ。一方で、実はスマホの概念自体は全くゼロから生み出されたものではない。もともと電子手帳という礎があり、それが携帯電話と結びついたのだ。


 新しいプロダクトが創造される際、既存の技術が苗床になっている。そうしたエピソードが翔は好きだ。ハイブリッド車にも、その頃既にコモディティ化していた白物家電の洗濯機を設計していたモーター技術者たちの汗水が加わっている。新しいテクノロジーというのは、枯れた技術を苗床として育っていくものなのだ。「この話は、これまでにない大きな利益をもたらす可能性がある」という煮えたぎるような予感を、翔は抑えつけながら、ガンタンを持ち上げるような、それでいてちょっとからかうような口調で言った。


「確かに当たるか当たらないかわからないものを自分たちで調べてやるより、信頼できる人間に任せた方が時間の無駄にはならないな。さすが、効率主義だな」

 翔の言葉に対して、ガンタンは言葉ではなく笑顔で返事をした。全てをわかっているという顔だったが、翔もガンタンも丸で古くからの友人の如く、お互いの腹を熟知していたのだ。


 つまり、お互いに「貴族たちを刺激するプロダクトが見つかるだろうこと」は理解していたし、万が一見つからなかったとしても、調査料が出るなら、翔に損はなく、むしろメリットしか無い。一方のガンタン側からしても、「外すことによる、時間の無駄」を排除できる。結局の所、利害が一致したのだ。


「この情報、拡散しといたよ。あとは、よろしく頼む」

 ガンタンはそう告げた。

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