金銭の本質と、奴隷制度からの脱却と。
「なんじゃこりゃ」
翔が思わず、往年のドラマの中で、刑事が叫んだシーンと同じセリフを発したことも、無理からぬ事だった。
キャスが案内してくれた貴族街。目の前に広がる光景は、巨大なパイプの中を車らしきものが走り、人同士は空中に浮かんだ映像を立体的なホワイトボードのように使っている……一言でいうと、近未来そのもの。さっきまでいた、中世的風景と比較すると、その落差や時代の流れに、意識が揺さぶられるような感覚を覚える。
「服装も全然違うでしょ?さっきの街とは」
キャスの言うように、これまで通ってきた街の人々の服装とは全く違う。スタイリッシュというより、機能性を重視しているであろう衣類をみんなが身に付けていた。まるで、1枚の布でできた……いや、素材そのものも現代には無い、布以外の素材でできていることが伺えた。
「ああ、あの服は、夏は中が涼しくて、冬は温かくなったりするので便利なんだって。健康状態もリアルタイムで測れるから、病気なんかも“前兆”の段階でわかっちゃう。でも、なんかみんな画一的でダサい服だと思うけどね」
キャスは少し笑いながら説明する。道中でのキャスの話を総合すると、この世界はどうやら、3つの層に別れているらしい。貴族街の住人は“ 統べりし者”《あるいは、真なる効率主義》、キャスたちのような亜人たちは“目覚めし者”《あるいは、真なる覚醒者》と呼ばれ、奴隷階級として扱われているようだ。そしてもう一つ、“愚かなるマジョリティ”《あるいは真なる隷属者》があり、彼らが亜人種たちを搾取している層。人数が一番多い。“愚かなるマジョリティ”はもちろん、キャスを含め亜人種からは、徹底して嫌われている。
「ずいぶんと、原始的だな」と翔は一瞬感じたが、「あ、別に現代でも同じか」と思い直す。
本来、人間に役立つツールとして創られた“金銭”という存在が、目に見えない鎖となって、一生まとわりつく。資本家と労働者の間は広がるばかりだ。結果、経済特権層とも言える、上層部の3%に富は集中した。とある国では、経済的成功そのものが上級国民のような特権階級にまでなっている。その対局にあるのが“社畜”と称される、低コストで作業を行う労働者階級だ。
ツールのはずの金銭に、人間が支配された時、世の中は狂ったし、狂いだした。そういう意味では、お金をポケットにねじ込み、そのまま支払いをする海外のスタンスは正しい。“お金”といって、まるで宝物のように扱い、高い財布に入れて持ち歩くのはその本質において間違っているのだ。
「何を考え込んでるの?」
お金の存在について、やや哲学的なアプローチから想いを馳せている翔に、キャスが聞いてきた。相変わらず屈託のない笑顔に癒やされる。
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