第二章

戦闘開始

「これより我軍は、特攻をかける。我々の屍が、国の未来を切り開くことに繋がるなら、これ以上の名誉はない。私はそう思っているが、無理をする必要は一切ない。去るものに対して、“逃げた”などということは無い。この状況であれば、逃げ出すほうが正しいし、正義である。私の想いとしては、むしろ去ってほしい。国に帰れば、そなたの武力で侵略を防ぐこともできよう。愛すべきものを救うこともできるだろう。しかし、ここでの特攻で生き残る可能性は極めて低い。老いぼれに付き合うことはない」

 大山巌おおやまいわおは自らの部隊、100人の部下たちに語りかけた。少数精鋭、一騎当千の強者たちばかりだが相手の数は1万人以上。多勢に無勢も甚だしい。玉砕のようなものだ。先代の王、大山の言葉は嘘偽りは無かった。この情勢の中で去るものをに対して、称えたい気持ちすらあったのだ。


 しかし、誰も立ち去るものは無かった。むしろ、目をランランと輝かせている。大山は自らを“老いぼれ”と称したが、この軍勢、全員が老人だった。“老人部隊”は、幾度の戦で生き残ってきたもの達ばかりで構成されている。老いてはいるものの、全員が武力に長けているのだ。


「どうやら、去る者はいないようですな、大将。我々の最後の舞台が、国を護り、次の世代を救うことにつながるのであれば、みんな命を捧げましょうぞ。最期のお務め、果たさせていただきたい」

 長年、軍師として大山を補佐してきた花押かおうは笑みを浮かばながら言う。普段、大山のことを“大将”と呼ぶことは無い。だから、あえて“大将”とおどけて言った時、軍勢に笑いが起こった。花押の計算深さ、したたかさはここでも現れている。1万の軍隊に、たった100名で特攻をかければ、全滅するのは自明の理。であれば、少しでも敵に損傷を与えるべく、部隊の高揚を誘ったのだ。


 ただ。

 実のところ、老兵士たち全員が花押の考えを見抜いていた。花押も解っていたし、老兵士たちも理解していた。丁々発止の命のやりとりをしてきた漢たちである。言葉よりも通じる物があるのだ。


 老人たち100名の、最期の覚悟を大山は知り、穏やかにかつ力強く言った。


「全軍、突撃!」


 大山がこう告げると、100名の老兵士たちは、一糸乱れず、敵軍に特攻をかけた。

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