弱小デイトレーダーが異世界に来たら、いきなりチート投資家になったのです。
@comsick_
第一章
プロローグ/驚愕
「嘘でっしゃろ。。。」
思わず関西弁で自分にツッコんでしまうほど、強烈な数字だった。弱小デイトレーダーの
シードマネー(種金)、100万円程度の翔が普段手掛けているデイトレードでの利益は、せいぜい月20万円ほど。負ける時には1秒で10万円ほどが一気に溶けるという恐怖のリスクを思えば、普通に勤め人をしていた方が、遥かに精神衛生上は優しい。
翔が手掛けるデイトレは、日本株式を1日に何回も……時には数百回単位……で売り買いを行ない、細かく利益を出すスタイル。たとえば100円の株を100万円で1万株買い、1円でも上がれば瞬間に利確。利益を1万円確保する。デイトレよりも一瞬で利益もしくは損失の決着をつけるため、スキャルピングとも言われている。
──といっても、この場合であれば、逆に下がると1万円の損が出る。翔は資金の3分の1以下、最高でも3000株しか買わない。そうすると、利益も減るが、大損も回避できる。だから、本当に利益は少ない。
それでも翔がデイトレに活路を見出す理由は、組織勤めが性に合ってないからだ。特に人間関係。好き嫌いが激しく、合わない人間に対しての対応は「もう無理」だった。
一般的に、投資において大切なのは「再投資」の概念。利益が出たら、その分をシードマネーに組み込むことで巨大な資産になっていく。たとえ、元本が100円で1日の利益が0.5%であったとしても、コツコツ積み上げていけば2年以内には6倍を超える利益をもたらしてくれるのだ。
しかし、翔は“糧”のためのデイトレなので、基本的に利益は生活費に回る。だからシードマネーが大きく増えることはない。月20万円の利益というのも、平均するとだいたい年間で240万円程度は出るという意味合いであって、負ける月は普通に10万円単位で無くなっていくので、割の良い商売というわけではない。
そんな特に優秀でもない弱小トレーダーの翔が、専業トレーダーとしてやっていける理由は、“損切り”が得意だからだ。
普通、人間の精神は、“含み損”に対してリスク以上の許容をしてしまう。一方で、利益が出ている時に“もっと利益を出せる局面”であっても、それを受け入れることがなく、早々に利益確定してしまうという不思議な構造になっている。
だから「利小損大」になっていくのだ。しかし、翔の精神はある種、ロボットのように冷淡に損切りができる。そういう意味ではトレーダーには向いているのだが、いかんせん投資の才能がない。
大きな利益を出せる場面でも、即利確。本来は「利大損小」が求められるが、「利小損小」のパターンで、1トレードあたり数百円から数千円の利益をコツコツと出し、損も少なく抑える。それでも、損切りが遅れたり、急激なストップ安などに巻き込まれる事故もある。
そんな翔にとって、1000万円単位の資産というのは、通常ありえない数字。そもそも、メンタルが千万円規模についていけない。ついていけないという自覚があるからこそ、弱小トレーダーとしてチマチマ生活費をマーケットから抜いていたのだ。
──こんな事態になったこと・・・、というか「この世界」に来てしまったきっかけは、数日前に遡る。
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