VR世界は、ベタな割によく出来てる!

 「カツン」という軽い衝撃と共に、体の半身がのけぞるのを、翔は感じた。暗かった視野にも徐々に光が差し込み、視界が定まってくる。衝撃の理由は、小柄な少女がぶつかってきたからだと気づく。


 ぶつかった反動で少女も半身になり、お互い向かい合う体勢に。黒装束の男たちが少女を追いかけてきており、逃げてきたのがわかる。


 少女は、不揃いな前髪を前におろしているショートカットの髪型に、芯の強さを感じさせるボーイッシュな愛くるしい顔立ち。髪の毛は薄い青色で、瞳は更に濃い色のブルーだ。着ている服装も、藍染めしたような淡い青。

 そこに、ぴょこんとが立っていた──え?長い耳。


 一般的な人間ヒトではないことは、一目瞭然だったので、「あ、エルフの設定なんだな」と、翔はひとりごちる。少女の背後に広がる街並みは、中世ヨーロッパや南北戦争前のアメリカ、あるいは日本の江戸時代を思わせる。そう、一昔前のRPGに出てくるような──中々ベタな風景だったのである。


 ただ、ぶつかってきた時の感触や、ほぼ目視と変わらないような高精細な視界に「めちゃめちゃリアルだな」と、感心した。


 ぶつかった少女は、その愛くるしい顔に、一瞬驚きの表情が浮かべ、翔の背後に周り込む。「助けて」とその目は訴えていた。黒装束の男たちを間近で見ると、黒いマントのような服装に身を包んでいる。総勢5名だ。

 

 そのうち4名は大きな体躯だが、身を持ち崩したボクサーのような小太り体型。一人は背が低く、その男が大柄の4名を指揮しているように見えた。


 翔に次々とぶつかってくる男たち。3人目の男はモロにぶつかり、尻もちをついた。舗装された道路などではなく、少し硬めの土なので、土埃が舞う。この辺りも、RPGの世界観だ。


 「いきなり出てきてやがって!」

 男は叫ぶ。黒いマスクのようなもので顔を覆っているので、目の部分だけしか見えないが、怒気が含まれていることは判別できた。語気も荒く、いきなり殴りかかってくる。背の低い男が、体躯の良い男たちに、顎をシャクって、翔を取り囲むように合図した。


 「マジか」

 と、翔が呟くより早く、その体は動いていた。

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