ユニークを主として生きていく。

 翔とキャスは亜人の村に戻った。早速、エルフ族の長であり、肖像画の達人でもある“バジェット爺さん”に話を聞きに行く。白ひげをたくわえたバジェット爺さんは小柄で朗らかな笑顔が特徴だ。親しみやすく愛される人柄で、他の亜人からの信頼も厚い。


「肖像画については描けそうじゃなあ。額縁については木工品じゃが、実は鉄も使われておる。鉄細工についてもドワーフが得意な領域じゃ」

 重厚な物言いだ。 人生としての年輪を感じさせる。

 が、続けて。

「ていうか、鉄製のアクセサリーって、女性ウケすんジャネ?」

 とまるで若者口調で語尾を上げ、言った。しかも間を取り、重厚さの前フリを活かすために、しばしの溜めも入れて。老獪な技術である。 元々亜人は、ユニークを主として生きている。


 ドワーフにせよ、エルフにせよものづくりに打ち込んでいるときは、しかめっ面をして向き合うこともあるが、基本的に「仕事は楽しく」というスタンスなので、辛そうな表情が並ぶ工房というようなことは、基本的に少ない。真剣に作業に打ち込みながらも、その場には笑いやギャグ、ユーモアに溢れているのだ。


 それはもしかしたら「非生産的」なことかも知れないが、亜人たちは人生において、それが「何よりも大切なことなのだ」という信念を持っていたし、翔も同感だった。というよりも実のところ、一見真逆のように見える貴族と亜人たちだが、発露の仕方が違うだけで、実は同じような精神性メンタリティーを持っているのではないかと翔は考えていたのだ。貴族は効率化として理性を選び、亜人はより人間らしい情熱パトスを尊んだというだけの話で。まあ「亜人の方が人間的だ」というの少し変な感じではあるが。

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