史上初の「絵画取引」が成立。

「おお!これが例の絵画か。やはり、ホログラムで見るのと実物ではまったく違うな。質感も、絵から放たれている独特のエネルギーも感じられるものだなあ」

 ガンタンからの連絡を受け、キャスの絵に興味を持ってやって来たその貴族は、目を細めて笑みを浮かべつつ、絵画に魅入っている。


 バーチャルで充分に確認できるのに、わざわざ現物を見るために足を運ぶというのは、貴族街では珍しいタイプなのだろう。その貴族の名はハツヒ・ノデ。皆から「ハツヒ」と呼ばれている。


 キャスとガンタン、ハツヒが絵画を愛でているうちに、その日の株式のデイトレードが終わった翔が合流した。


「では、早速この絵を購入しようと思う。値段はいかほどになるんだい?」

 原価を知っているキャスの前で、“価格はちょっと言いにくいな”とも思いつつ、翔は仕入れ値に5割程度の利益を乗せた金額を告げる。


「ずいぶんと安いじゃないか。まあ、とはいえ絵の価格というものが、今、この時点で初めて決まったわけだから比較のしようもないのだが」

 ハツヒは指で支払いのコマンド操作をしつつ、翔にいう。


「え!本当に売れた…」

 キャスは思わず声を上げる。そして、とびあがらんばかりに喜び、抱きついてきた。胸はない。だがそれが良い!──いや、違う。それはただの翔の好みだ。キャスが喜んだのは、お金そのものというより「自分の価値が認めらた」ことに起因すると翔は感じていた。


「ていうか、私の絵が商品になるんだったら、エルフ族にはもっと上手な人たちがたくさんいるんだから、売ればいいのに」

 と、キャスは翔にコソッと伝える。


「え!これよりも上質な作品があるというのか。ぜひ観たいものだ」

 キャスと翔のコソコソ話が耳に入ったハツヒは、目を輝かせながら、興奮気味に言う。


「この絵も良いのだが、もし私の肖像画などがあれば、飾っておけるなあ。写真をおいていくのは恥ずかしいが、絵画ならオブジェになるし」とハツヒは言ったのだった。

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