貴族から始まる、素敵なお仕事。

 肖像画とは、まさに貴族らしい発想である。

「…となると、一点物になりますね。その分、割高になるとは思いますが」

 翔は言う。ビジネスの種がここに眠っていたと、実感しつつ答える。


「別に構わない。良い作品に糸目はつけないから」

 ハツヒはこう返した。さすが、いい顧客である。本物の金持ちというものは、高付加価値なものに対しては、お金でしっかりと評価するものだ。変なケチり方はしない。


「肖像画だったら、バジェット爺さんが得意かも。昔から人物像を描くのが得意だし。しかも、ちょっとだけキレイにイヤミなく“盛る”から好評なんだよね」

 キャスは、翔に言った。


 普通の人から見ればキャスの絵も、充分商品になりうるクオリティだが、エルフが描く絵の中では中程度。それでも、買いたい人がいることが解った。となると、上手なエフルたちが描く絵画は、もっと高い価値が付くだろう。さらに、顧客開拓にまで手を伸ばせば、こぞって買いに来る貴族たちが増え、利益が急拡大するかも知れない。


「絵そのものも美しいが、それを支える額縁もきれいだねえ」

 ハツヒは購入した絵画を手にしながら、話す。額縁は木で出来ており、きめ細やかな“彫り”が入っている。それでいて、絵には決して干渉しない絶妙の細工だ。ハツヒは、それを見逃さなかった。


「額縁は、私の絵に合っているものを、オーダーメイドで、ドワーフ族の友人がつくってくれたのよ」

 とキャス。こうした高度な技術を、お互いに無償でやりとりするのが亜人族たちの慣わしのようだ。


「そうか。もしかしたら、まだまだ我々が欲しいモノは亜人族のところに転がっているのかも知れないね」

 とガンタンが言ったが、翔も同じことを考えていた。同時に、なぜこれまで交易が無かったのかという理由にも思いを馳せる。


 おそらくそれは、世界に支社を持つ超巨大企業に似ているのだ。コングロマリット企業のトップが、新卒で入社した社員の趣味や特技まで把握しているなんてことはない。この世界での、貴族層と亜人層の隔絶はそれ以上だ。だからこれまで、まったくディールをするという発想が無かったのだろう。だから、ブルーオーシャンであり、チャンスなのだ。翔は、そう感じつつ次の作戦を頭の中で練っていた。

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