キャスとガンタンは、それぞれの立場
キャスとガンタンは、それぞれの立場でモフモフと考えつつ、集合場所に歩いていった。何もせずに歩くのは、ただの時間の浪費だが、考えを巡らせながらの徒歩は有意義だ。あっという間に時間が過ぎている。
この世界のデバイスは優れており、キャスもガンタンも自身の視野の一角に映像を映したり、音声を聴いたりしながら歩くこともできたが、あまりそういうことはしない。交通安全のためというより、歩く時くらいは思考を深めたいからだ。逆に
歩いている途中に思いついたアイデアなどのメモも便利だ。基本的に思考の全てがバックアップされているので、思いついたことを自動的に抽出することができる。さらに、街中に飛び交う交信波で、わからないことがあればサイバースペースに直接アクセス。情報を得ることが可能だ。貴族街では、アクセススピードが他のところよりより速くなっている。
──そうこうしているうちに、集合場所に2人が到着した。
「私が描いた絵画だけど、欲しい人とかっているのかなあ?」
とキャスは、道中で感じていた疑問を、ガンタンにぶつける。
「効率主義と芸術は対極にあるものだからなあ。ある意味“非生産的”の極致である絵画の価値というのは、私では計り知れない。ただ、少なくとも素養のある人にとっては興味深いものだし、そもそもこれを提案してくること自体が大発見と思うよ。やっぱり外の世界の人間だけのことはある」
ガンタンは応答し、言葉を続ける。
「需要という意味では、我々ほど本質的な娯楽に飢えており、貪欲な連中もいないと思うぞ。ただし、お金そのものは溢れるほどあるが、既に欲しい物に対する“欲望”そのものは、最適化が行き着いた結果、抑制できうるものになっているからなあ。読めない面がある……あれ、と言ってる間に返信が来たぞ。おお!現物が観たいそうだ」
ガンタンは少し興奮気味に、仲間内から“絵画に興味がある”というメッセージが来たことをキャスに告げた。キャスもびっくりした表情になる。「まさか!本当に興味がある人がいるなんて」と。
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