高度な金融の発達と、実体経済の乖離と。

 ガンタンがしたように、指のモーションでパネルを表示し、キャスに3万クレジットを送る。


「当座のお金はうれしいけど、この絵をどうするのかが理解できないんだよなあ」

 とキャスは喜びながらも疑問を口にし、ここで3万クレジットが持つ価値を説明する。


「これだけあれば普通に半年は暮らせるよ。頑張れば1年以上はいけちゃうかも。この村って物価が安いし、そもそも自給自足に近いからお金ってそんなに必要ないし。“愚かなるマジョリティ”での給料は、朝から晩までこき使われて2000クレジット程度だったから、搾取が過ぎてたわけだけど。人材の価値はマーケットが決めるから、安い賃金で働くのはその人のせいだと言う理屈だけど、結局どんどん格差が広がっちゃってて、誰もが幸せじゃない」


 キャスの話で不思議だと感じたのは、金融や投資のテクノロジーが発達しているにも関わらず、実業的な商業行為が、この村では見受けられないと言うことだ。「PBR」「ROI」といったキーワードを話題に出すだけで、嬉々として話し出すキャスだが、商売の基本である“売買”という概念については、剥落している。貨幣経済の仕組みや実業について聞いてもキョトンとして、「村の中では基本的に物々交換だよ」と言うのだ。


 実業としての経済は発達せず、高度なマーケット環境のみが進化しているアンバランスさは、“投資家のために創られたであろう、この世界”ならではのギャップなのだろうと、翔は感じた。この辺り、もう少し探っていくと面白そうな理由がありそうな気がする。


 そうそう。大事なことを忘れていた。キャスの絵を購入する前に、キャスとガンタンの話の中から、 統べりし者”の貴族層や、“愚かなるマジョリティ”との取引が無く、基本的にはそれぞれの層で経済は完結していることを翔は把握していた。


 絵を購入後、早速ガンタンに「今って、通話できるかい?」とメッセージを送る。すぐに、ガンタンからのコールが来た。

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