スイッチオン!

 キャスと村を観て回っていると、絵のギャラリーのような建物に行き着いた。「ここ、私の描いた絵が展示してるんだよね」と照れながらいうキャス。せっかくなので、2人は入ってみることにした。


「これだけど」と自分の絵を紹介するキャス。絵しりとりでイヌを描けば、おおむねみんなが“古代の幻獣だよね?”とツッコむしかないレベルの描写力という、絵心皆無の翔であっても、キャスの描いた絵の魅力は心に刺さった。そんな魅惑。絵に対して称賛の言葉を口にする。


「褒めないでよ笑。私の絵なんて、他のエルフと比べたら全然まだまだなんだから」

 嬉しそうに返事をしながらも、キャスの言葉はただのさからだけではないことを、翔はすぐに見て取った。


 確かに見渡すと、キャスよりも上手である絵画が並んでいる。写真よりも高精細じゃなかろうかという絵、幻想的なこの村の風景をさらに綺麗に描写している絵画がゴロゴロと転がっていたのだ。ただ、キャスの絵は熟練というのではなく、イキイキと伸びやかに描かれているという面において卓越していると感じられた。


 ただ、翔にとって最初にピンと来たのは、絵の美しさでは無かった。「この絵は」という、投資家としての直感で、脳のスイッチが切り替わったのだ。


「さっき、逃げてきたから働く場所が無いって言ってたよね?じゃあ、この絵を僕が買うよ。だから、生活費の足しにすればいい。そうだなあ、だいたいキャス1人なら、3ヶ月は生活できるくらいのお金は払えるから」


 翔の申し出に、キャスは驚いた様子を見せた。


「え?でも、売り物じゃないから、値段なんて付けられない。助けてもらったお礼に、この絵は翔にプレゼントするよ」


「あ、それは違う。えと、これはキャスのためだけに買うんじゃない。僕はこの絵を、貴族たちに売りに行くため、自分の利益のために購入するんだ」

 と、はっきり自らの意志を伝える。キャスも、翔が仕事をする男の目になっていることに気づき、少しドキッとしたのだった。

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