ガンタンの想い【4】

 面白い人物との間で話が尽きないというのは、楽しいものだ。向こうもこっちに興味を持ち、お互いに聞きたいことが山ほどある状況ならなおさら。


 しかし、取材には引き際も肝心だ。


「このあとはどこに、行く予定にしているんだい?」と私は聞いた。

「キャスの村に行こう思ってる」と、翔が言うと、キャスがペコンとお辞儀をする。


 専門的な会話に対して、必要不可欠な時以外は入ってこないスタンスのキャス。アナリストやファンドマネージャーといった職種を支える“アシスタント”において、極めて重要な資質である。もちろん、キャスの有能さは、言葉の端々などからビンビンに感じてはいたのだが。


「次もあるなら、アドレスの交換をしましょう」と私は提案した。やり方がわかっていなかったようなので、イチからレクチャー。といっても、簡単なものなのだが。


 彼らと別れた後、私は少し街をブラつくことにした。なんの目的も持たず、街を歩くという行為は、私たちの間では珍しい。非効率的だからだ。しかし私は“歩きながら物を考えること”が好きだ。 むしろ歩いているうちに様々な考えが、頭の中でまとまってくる。脳を活性化させるために歩くということは、私にとって極めて高い効率を追求できる行為なのだ。


 歩きながら、戯れに服装を変えてみることにした。向こうの世界でいうところの、中世ヨーロッパ風の服装だ。ホログラムにより、一瞬できらびやかで豪華な服装に切り替わった。しかし、すぐにいつものスタイルに戻す。


 我々が来ている服には、こうしたホログラム機能が備わっている。しかし、今はほとんどの人は使わない。ホログラム機能は、導入された最初の頃こそ、みんな珍しがって使っていたが、服装を変えるという“非効率的”なことに、興味を持たなくなったのだ。向こうの世界でも、大IT会社のCEOたちが、朝に服装で悩むなどという非効率的な選択に「時間という貴重なリソースを取られないよう」に、毎日同じ服装を着ていると聞いた。全く同じことだ。


「効率」といえば、亜人に対する考え方もそうだ。ヤカラは、明確に“差別”を行なっている。我々はやらない。その答えは、非常に単純なもので、「差別は非生産的。差別をしても何も生み出さない」からだ。非論理的根拠による行動は、“無駄”の原因になる。我々の中に、そんな“無駄”を引き起こすような概念は一切必要無い。


 能力において、人間と亜人に全く違いはない。むしろ、亜人の方が高い 適性を示す領域もある。 愚かなヤカラたちは、それを認めたがらないが、我々は早々にそうした無駄に思考から脱却している存在なのだ。


 そんな、効率や非効率について思考を巡らせていたころ、翔から連絡が入り、私はすぐに返信後、通話モードに切り替えたのだった。

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