第31話 ゲーセン
翌日、待ち合わせ場所に俺とユリアが着くと、そこには既に和樹とフルレアさんの姿があった。駅前のベンチに腰かけて楽しく談笑しているようだ。フルレアさん、表情が乏しいかと思っていたけど和樹だけの前だとああいう感じに笑うんだな。
「すまん、和樹。遅くなった」
「あ、隼垣さん! ぜんぜん大丈夫ッスよ!」
俺たちが話しかけると、和樹は快活に笑って答えた。フルレアさんも俺たちに向かって小さく一礼する。
「あれっ? 姉御と館川先輩は一緒じゃないんスね」
「あー、皆月と杏璃なんだが体調不良だ」
昨日、けっこうな量の〈ジュース〉を飲んでいたせいで、
「頭痛ぁーい……」
「気持ぢわるぃ……」
朝からグロッキー状態になっていたので置いてきた。
本当は昨日の内に誘っていて、和樹にも了承を取ってたんだけどな。
ちなみに和樹は皆月のことを姉御と呼んでいる。
「体調不良なら仕方がないッスね。そんじゃ、行きましょうか」
俺たちは駅で電車に乗って都会まで出ることにした。
「は、箱の中に人があんなに……。箱が地面を滑るように走っています……っ」
「あれは電車というこの世界の乗り物ですよ、フルレアさん」
「で、でんしゃ……?」
フルレアさんは初めて乗る電車に驚いた様子で、ユリアから説明を受けている。
相変わらず詳しいな、ユリアは……。
電車に乗ること30分ほど。都会の駅に降り立った俺たちは最寄りの複合型アミューズメント施設に足を向ける。
都会で遊ぶと言ったらだいたいここだ。案内とは言っても近所の寺社仏閣を回っても退屈だろうし、まずは皆で遊ぼうという話になっていた。
というわけで、一階のゲーセンコーナーに入る。
「わわっ、す、すごい音です……っ!」
「ユリアちゃんもゲーセンは初めてッスか?」
「は、はいっ」
和樹の質問にユリアはコクコク頷く。
「ユリア、何か取りたいものあるか?」
「と、取りたいものですか?」
「この機械にお金を入れると、上のアームを動かせるんだ。そんで、下の景品を穴に落としたら貰えるっていう仕組みなんだよ」
「ど、どうしてそんな回りくどいことを?」
「……さあ、なんでだろうなぁ」
元を辿れば資本主義とは何か、通貨とはどういうものかというところまで行きそうな疑問だった。
それから俺たちはUFOキャッチャーで散財したりエアホッケーで対戦したりとゲーセンを存分に楽しんだ。
久しぶりに来るとけっこう楽しいものだな。俺が苦労して手に入れた猫のクッションをユリアが胸に抱いている。気に入ってくれたようで何よりだ。
フルレアさんも和樹にとって貰ったらしいクマのぬいぐるみを大事そうに抱きかかえていた。やっぱり普通の女の子にしか見えないな……。
「フルレアさんは、人間ではないかもしれません」
昨晩、ユリアは俺に向かってそう言い放った。
「人間じゃないって、どういう意味だ……?」
「魔力です」
彼女は自分の赤い瞳を指さして言う。
「わたしの目は生まれつき、生物が持つ魔力を見ることができます」
「魔力って……もしかしてMPか?」
「えむ、ぴー?」
ユリアはきょとんとした顔で首をかしげる。
MPが伝わらない? もしかしてステータスって、俺たちに見えているだけなのか?
とにかく、確認は後だな。
「忘れてくれ。それで、その魔力がどうかしたのか?」
「あ、はい。こっちの世界に住む人や生き物には、魔力が無いんです。おにいちゃんと外に出たときにすれ違った人や、空を飛んでいた鳥。みんな、魔力を見ることができませんでした」
「こっちの世界の生物は魔力を持たないってことか」
「おにいちゃんや勇者様、杏璃さん、皆月さん以外はそうです」
「俺たちのは後付けだろうな……」
おそらくあの自称神様の仕業だろう。スキルと一緒に与えられたと見るべきか。
「それで、フルレアさんはどうだったんだ?」
「……見えました。それも、人間の魔力とは少し違う…………ごめんなさい。言葉にするのは、難しいです」
感覚的なものもあるのだろうか。とにかくユリアには、フルレアさんの魔力が人間のものではないと感じる部分があるようだ。
……そもそも、魔力がある時点で怪しいか。
魔力が〈エンテゲニア〉の生物だけに宿るものだとしたら、フルレアさんは〈エンテゲニア〉から来たということになる。
和樹がフルレアさんと出会ったのは一週間ほど前だと言っていた。
一週間前……俺が親父に連れられて〈エンテゲニア〉に向かったのも、皆月と杏璃が〈ゲート〉を通って〈エンテゲニア〉に来てしまったのもその頃だ。
そしてその頃、親父が〈ゲート〉をしまい忘れていたせいでこっちの世界と〈エンテゲニア〉は繋がっていた。
フルレアさんが〈エンテゲニア〉からこっちに来てしまった可能性は十分にある。
そして、仮にフルレアさんが人間じゃないのだとしたら、
「魔人族……」
皆月と杏璃が〈エンテゲニア〉に来てすぐ、アドラスと鉢合わせたことを考えると可能性は十分にある。
ただ、だとしたら疑問が浮かぶ。
彼女はいったい、何を目的に和樹と行動を共にしているんだ……?
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