第18話 ワンサイドゲーム
――スキル〈異性とキスしたら3分間だけ無敵になる〉を発動。
――以下の効果を取得します。
【HP常時全回復】
【HP無限】
【MP常時全回復】
【MP無限】
【全ステータス限界突破】
【全ステータスカンスト】
【物理攻撃無効】
【魔術攻撃無効】
【全状態異常回復】
【全状態異常無効】
【即死無効】
【全取得可能スキル開放】
【全取得可能魔術開放】
――スキル効果持続時間174秒。
あれだけの激痛が嘘のように消える。スキル〈痛覚遮断〉が自動で発動している影響だ。
スキル〈分析〉で皆月のステータスを確認すると、〈操り人形〉という異常状態に陥っていた。これが皆月を体の自由を奪っていたようだ。
「〈分解〉、〈領域完全治癒(エリア・パーフェクトヒーリング)〉」
最上位消滅魔術〈分解〉で刀を消し、最上位治癒魔術〈領域完全治癒〉で俺や皆月、杏璃の傷を癒す。杏璃はぎりぎりだった。あと数分遅かったら、間に合わなかっただろう。
……ただまあその時は、最上位禁忌魔術〈蘇生〉を使うだけだが。
魂がその場に残り続けている場合に限り使用できる、死者を蘇生できる魔術。こんなものまで使えるのか。本当に何でもありだな、このスキルは。
『くふっ⁉ 貴様、何をやっているのです……? なぜ刀が消えるのですか⁉ どうして三人同時に傷を癒せるのです⁉』
「答えてやる義理はねぇよ。〈転移〉」
俺は皆月を連れ、杏璃のすぐ傍へ転移する。
と、杏璃は倒れこんだまま俺を見上げて笑っていた。
「もぉ、遅いよ。りょー君のばか」
「すまん」
「でも、来てくれたから許しちゃう」
杏璃の声に覇気はなく、体は倒れこんだままだった。肉体のダメージは癒したが、精神への負担は相当だっただろう。しばらくは動けそうにないな。
「杏璃……っ!」
〈領域完全治癒〉で異常状態からも回復した皆月が、自らの意思で体を動かし杏璃の傍に膝をつく。
「杏璃、あたし……っ。ごめん、ごめんなさい……っ」
「言ったでしょ、みなちゃん。みなちゃんは悪くないよ。わたしもほら、大丈夫だったし」
「全然大丈夫じゃないっ‼ バカ、ばかばかばか……」
ぼたぼたと涙を落とす皆月に、杏璃はゆっくりと手を伸ばす。その手を皆月が掴むと、二人の手がほのかに明るい緑の光に包まれた。
……スキル? 〈分析〉には〈慈愛の心〉と表示されている。
効果は手で触れている相手のHPとMPの回復……だけじゃないな。副次的なものだろうか、相手と自身の精神的なダメージをも回復する効果があるようだ。
温かな光だ。見ているこっちまで心が安らぐ。
だが、
『〈操り人形〉』
「無駄だ」
どこからか放たれたスキルによる攻撃を、〈絶対防御領域〉で弾く。
てめぇのやり口はもうわかってんだよ、アドラス。
『あ、ありえない……! 私の〈操り人形〉が効かないなんて……‼』
「そこか」
スキル〈鷹の目〉。どのようなスキルや魔術で姿を隠していたとしても、このスキルはその全てを見破ることができる。
祭壇に腰掛けこっちを見ているフクロウ頭。お前がアドラスか。
「〈遠当て〉」
『くふぉっ⁉』
上位気功魔術〈遠当て〉で気を放ち、アドラスを後ろの壁にめり込ませる。
「な、なにが……⁉」
「ようやく姿が見られたな、フクロウ野郎」
上位隠蔽魔術〈透明化〉か。ダメージを受けたことで解除されたらしい。
「ば、馬鹿な……! 私の居場所を見破ったなど……! 人間風情が……‼」
めり込んでいた壁から起き上がり、アドラスは俺を睨みつける。……といっても、フクロウだから表情はよくわからんがな。
ただただ殺気を周囲にまき散らしているだけだ。
「くふふっ。くっふふふふふふふっ‼ 私の力が〈操り人形〉だけと思っていたら大間違いですよ、人間。魔王閣下の配下デーモン31柱の1柱の実力、とくとご覧に――」
「〈千の閃光剣〉」
「は……?」
最上位光魔術〈千の閃光剣〉。千本の光の剣がアドラスを取り囲み、一斉に放たれる。
「ぎゃ、がぁああああああああああああああああああああああああああああ‼‼⁉⁉⁉」
「勘違いしているなら教えてやるよ、アドラス。もうお前に反撃の機会は訪れない。ここからはワンサイドゲームだ」
全身をずたずたに切り裂かれボロボロになったアドラスは、いまだ死んでいない。
そうじゃなきゃ困る。あえて、急所を外してやったんだ。
「ば、ばげものめ……」
「お前、鏡で自分の顔見たことねーのかよ」
まさか悪魔にまで化け物呼ばわりされるとは思ってなかったな。まあ、別に構いやしねーけど。
むしろそれでいい。これまでお前がしてきたように、今度はお前が恐怖と絶望に染め上げられて死ぬ番だ。
いつでも殺すことはできる。けど、簡単に殺してやるものかよ。
皆月と杏璃を傷つけたお前を、すぐに楽にさせてたまるか。
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