親父の転勤で異世界へ行くことになったんだが、女の子とキスすると3分間だけ無敵になるスキル貰った

KT

第1章 異世界に美人な母親とかわいい妹が居た件

第1話 異世界転勤

「父さん、実は異世界で勇者やってたんだ。今度また、その世界に転勤することになったからお前もついて来ないか?」


 親父の言葉に俺の思考はフリーズした。


 えーっと、どうしてこうなったんだ?


 自分の部屋で幼馴染たちとグループ通話してて、明日の小テストがどうこう、学食のパフェがどうこうなんて話をしていた時に、


「涼一郎(りょういちろう)、大事な話があるんだ」


 と、親父が呼びに来たんだった。


 いつになく真面目な声音に無視するわけにもいかず、幼馴染たちには断りを入れてリビングキッチンまでやってきた。


 机を挟んで俺と向き合った親父はこう切り出した。


「転勤することになった」


「どこに?」


「エンテゲニアだ」


「どこだよ」


 聞いたことねぇよ、エンテゲニア。東欧の地方都市か南米の山奥か?


 これでも受験を意識し始めた高校二年生である俺は、頭に詰め込まれた知識の中から必死にエンテゲニアを探した。


「エンテゲニアは異世界だ」


 見つかるわけねぇよ。


「父さん、実は異世界で勇者やってたんだ。今度また、その世界に転勤することになったからお前もついて来ないか?」


 そしてこの問題発言に至る。


 親父の話によると、親父の勤める会社「グローバルカンパニー」は数多の異世界をまたにかける多異世界籍企業らしい。グローバル過ぎるだろ。


 そうとは知らずに新卒で就職した親父は、右も左もわからないままとある世界に転移させられ、そこで勇者として魔王と戦い、世界を救ったそうだ。


 その世界というのがエンテゲニアだという。


「先日、エンテゲニアの支店から魔王復活の兆しありとの連絡が入った。そこで、エンテゲニアに明るい私が再び異世界転勤することになったというわけだ」


「……えっと、親父。大丈夫か?」


 まだ「実はユーチューバーだったんだ」と言われた方がマシだったかもしれん。頭の心配をせずに済んだからな。


「俺、明日学校休むから病院に行こう。付き添うからさ、脳外科に今から予約入れて」


「不要だ、涼一郎。しばらくこの世界には戻ってこれないだろうからな」


 親父は「ステータス」と呟くと、虚空を指でなぞり始めた。


 あぁ……、もう手遅れだったか。頼むから現実に戻ってきてくれ。


「ふむ……。やはり十五年以上もブランクがあると体が鈍っているな。MPの総量は若い頃の七割といったところか」


 親父はひたすら虚空に指を躍らせながら、呪文のように何かを呟き続けている。


 こんな親父でも、俺を男手一つで育ててくれた自慢の親父なんだ。母さんは俺が生まれた直後に死んだらしく、親父は俺を育てるために再婚もせずひたすら仕事に心血を注いでいた。


 その無理が祟ったんだろう。親父は、壊れてしまったんだ。


「装備〈勇者の剣カリバー〉、〈勇者の鎧アヴァロン〉」


 すまん、親父。俺、大学行かずに働くよ。今まで親父にお世話になってきた分、これから返していくからさ。仕事もやめて家でゆっくり休んでくれ。


「よし、では行こうとするか」


 ガチャリと音を立てながら親父が立ち上がる。


 俺が顔を上げると、そこには全身金ぴかの鎧を着て、右手に金ぴかの剣を持った親父が居た。


 ……どうやら壊れたのは俺の方らしい。


「何をしているんだ、涼一郎。出立の時間だ、お前も来なさい」


「親父いつ着替えたんだよ……」


 夢であってくれと願いながら自分の頬を殴りつけるとすげー痛かった。


 親父が「お前はマゾなのか?」と真顔で聞いてきたからぶん殴ろうとしたら左手の人差し指一本で受け止められた。


 いやもう、なんだこれ……?


 頭が混乱してきたせいか、急に尿意を催してきたじゃねーか。


「すまん、親父。とりあえずトイレ」


 俺が廊下に出ると、なぜか親父もついてきた。


 そして、


「〈ゲート〉」


 親父が剣の先端をトイレの扉に向けると、扉が光に包まれ、なんかめちゃくちゃ細かな装飾が刻まれた荘厳な扉に変化した。


「…………なあ、親父。これは?」


「異世界への転移門だ。ここからエンテゲニアへ行くことができる」


 へぇー……。


「で、トイレどこ行った?」

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