第6話 王位継承権
ユリアの案内で街中を歩き回り、気づけばもう夕暮れになっていた。
さすがに歩き疲れた俺たちは、屋台で買ったクレープを手に公園のベンチで休んでいるところだ。
このアメリア噴水公園は、ユリアのお気に入りの場所なのだという。
「天気のいい日は、よくここで本を読んだりしているんです」
「へぇー、ユリアって読書家なんだな。どんな本を読むんだ?」
「へっ? そ、それは内緒です……っ!」
「内緒にしなくちゃいけないような内容なのか……」
語るに落ちるというか何というか。
今日一日で、ユリアのことをそれなりに知ることができた。甘いもの好きだとか、服は明るい目の色が好みで特に赤がお気に入りだとか。よくハーブティを飲んでいるそうで、その効能について俺に語る姿はとても生き生きとしていた。
「あの、退屈しませんでしたか……? 今日一日、ずっとわたしばっかり話していたような気がして……」
「いいや、退屈なんてするわけないだろ。見るもの全部が新鮮だったし、ユリアのことも知ることができた。めちゃくちゃ有意義で楽しい一日だったよ」
「そ、それは何よりです!」
ユリアははむっとクレープを頬張ると、幸せそうに顔をとろけさせる。第一印象は不愛想な子かと思ったけど、意外と表情豊かなんだよな。特に甘いものを食べている時の顔は緩み切っていてすごくかわいい。ずっと甘いものを食べさせてやりたくなるくらいだ。
しばらくユリアのとろけた表情を観察したのち、俺はベンチの脇に控えるロズワルドさんに話しかけた。
「ロズワルドさん、今日一日ありがとうございました。おかげで、良い時間が過ごせました」
「…………」
「ロズワルドさん?」
俺の声が聞こえなかったのか? ロズワルドさんからの返事がない。
日中はずっと俺たちの護衛として付き添ってくれて、会話も必要最低限ではあったけど、愛想の悪い人じゃなかったはずなんだが……。
どこを見てるんだ? 俺たちの座るベンチとは噴水を挟んで反対側。そっちのベンチには誰も座っていないが、ベンチの後ろの茂みで何かが光った。
「危ないっ‼」
叫んだのはユリアだ。
ユリアは俺を突き飛ばして上に覆いかぶさるように飛び乗ってくる。
直後、ベンチの俺が座っていた部分が吹き飛んだ。
「なっ……⁉」
バゴォッ‼ と音を立てて木片が飛び散る。あのままユリアに突き飛ばされず座っていたら、俺の腹には大穴が開いていたかもしれない。
「無事ですか、涼一郎様!」
ロズワルドさんが盾を構え、俺たちをかばうように立った。
幸い、ユリアのおかげで俺に怪我はなかった。
だが、
「ユリアっ!」
ユリアは顔を顰めながら右肩を左手で抑え、そこからぽたぽたと血が流れ落ちている。
なんだよ……、なんだよこれっ‼
「ユリア、その怪我……!」
「掠り傷です。それよりも……」
「おそらく涼一郎様を狙った魔術による狙撃かと」
「そ、狙撃って……!」
どうして俺が狙撃なんかされるんだ⁉
まったく訳が分からず、状況に頭が追いつかない。
あり得ないだろ、いきなり狙撃とか!
「とにかくこの場を離れましょう。私が先導します。お二人は私から離れないようについてきてください」
ロズワルドさんは盾を構えたまま走り出し、ユリアは傷口を抑えながら俺の手を引いて後に続く。
「ユリア、平気なのか……⁉」
「これくないなら大丈夫です。あなたこそ怪我はありませんでしたか?」
「あ、ああ。ユリアが守ってくれたおかげだ」
俺が答えると、ユリアはホッとした表情を見せた。
それも一瞬のことで、彼女は表情を引き締める。
「……あれは光の魔術。明らかにあなたを狙った狙撃でした」
「俺を狙ったって、どうしてそんなことになるんだよ? 俺は今日この世界に来たばかりで、ただの普通の高校生だぞ⁉」
「こーこーせい? その単語の意味はわからないですけど、あなたは普通の人じゃありません。狙われる理由は、十分すぎるくらいにあります」
「十分すぎるくらいにって……まさか! 俺が親父の息子だからか⁉」
この世界で親父がどんな存在か知らないが、魔王とやらを討伐して世界を救った勇者なら相当な大物なんだろう。俺たちを出迎えた兵士たちの態度を見ていれば何となく察しがつく。
でも、それだけで息子の俺が命を狙われるものなのか?
「それもあります。でも、一番重要なのはお母さんの血を継いでいることです」
「ソフィアさんの?」
「ソフィア・アメリアーナ・アウグスティス。アウグス王国の王家、アウグスティス家の第二王女であるお母さんの血を継ぐあなたは、この国の王位継承者でもあるんです」
「お、王位継承者⁉ 俺が⁉」
っていうことはアレか? 俺に王位継承権があるから、もしかして他の王位継承者から狙われているっていうのか⁉ ふっざっけんじゃねぇ! 完全にとばっちりじゃねぇかっ‼
「俺、この国の王様になるつもりなんてねーぞ⁉」
「つもりがあってもなくても、関係ないです。他の王位継承者からすれば、あなたはあまりにも危険すぎます。王族であり、王位継承者であり、勇者の息子でもある。そんな存在を生かしておいて得することはありません」
「結局親父の息子だからってことかよっ‼」
つーか、それがわかってるならどうして街に行かせたんだよ! 護衛もロズワルドさんだけって、さすがに不用心すぎないか……⁉
「おかしいです。勇者様たちが来るのを知っていたのは白銀宮の者たちだけのはず。外部に漏れているはずがないのに……」
「ユリア!」
俺は考え事をしながら走るユリアの手を引いて止めた。
我に返ったユリアは目の前の光景に動揺する。
「行き止まり⁉ どうしてですか……⁉」
俺たちはいつの間にか、三方を建物に囲まれた、路地裏の袋小路に迷い込んでいた。
振り返ると、黒い外套を着た男たち5人。退路が完全に塞がれている。
……そういうことかよ、くそったれ。
「俺たちが来ることを知ってた人間が限られるっていうのなら、答えは一つじゃねーか」
内通者が居た。そしてその内通者は俺たちをこの袋小路まで導いた人物。そいつ以外にあり得ない。
ロズワルドは不敵な笑みを浮かべると、腰に下げていた剣を抜き、俺に向かって斬りかかってきた。
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