第19話 スキル〈魔術創造〉

「次はこういうのはどうだ、アドラス。〈操り人形〉」


「ばがな‼」


 スキル〈コピー〉。一度見たスキルや魔術を自分の物にするスキル。本来なら取得できるスキル一覧になかった〈操り人形〉だが、このスキルを使えば俺にも使うことができる。


 そして、ステータスカンストの俺が使えば、たとえオリジナルを持つアドラスであってもレジスト不可能。


「う、ごけない……。ありえない、ありえないありえないありえない‼ 私のスキルだ! 私の力が私に刃向かうなどあってはならない‼」


「体を動かせない気分はどうだ、アドラス? さぞ、気持ちが悪いんじゃないか?」


「――ッ‼‼‼ 貴様ぁああああああああああああああああああああああああああッ‼」


「次はお前の番だ、アドラス。自分で自分の体を刻め」


 スキル〈物質創造〉でナイフを作り、アドラスに向かって投げつける。


 左肩に刺さったナイフはアドラス自身が引き抜き、再び今度はわき腹に刺しなおす。


「ぎざまぁあああああああああああああああああああああああああああああッッッ‼‼‼」


 ざくっ、ざくっ、ざくっ、ざくっ。


 何度も刺しては引き抜き、また刺す。アドラスが皆月に自分の足を斬らせたように、アドラスに自分の肉を切り刻ませる。何度も何度も、延々と繰り返し。


 やがてアドラスの目が白く濁った頃には、奴の体は全身が穴だらけとなっていた。


「くふ。くふふふっ。くふふふふふふふっ‼」


「まだ死んでねーのかよ」


「我ら魔人族は不滅‼ たとえこの身が朽ちようとも魂が残り続ける限り我らは何度も蘇るのです‼ たとえ何度、何十度、何百度と滅ぼされようとも、この恨みは必ず果たしましょう! 覚悟しておくがいい、人間‼ 私は何度だって蘇り、あなたの大切なものを壊し続ける‼ くふふっ。くっふふふふふふふっ‼」


 アドラスは息絶えた。〈操り人形〉を解除すると奴の体は仰向けに倒れ灰となって消滅する。そして魂は再び受肉の時までこの世に留まり続ける……か。


「させるわけねぇだろ。〈霊魂捕縛(ソウル・アブダクション)〉」


『なっ……⁉』


 この場からどこかへ飛んでいこうとするアドラスの魂を、俺は上位霊魂魔術〈霊魂捕縛〉で捕縛する。


『なんです、この魔術は‼ 魂に干渉するなど! 知らない、ありえない‼』


「知らないのも当然だろ。俺が今作った」


『……は?』


 スキル〈魔術創造〉。〈物質創造〉と対になるスキルだ。


 その効果はイメージした魔術を創造する力。魂に干渉するスキルも魔術も存在しないなら、作ってしまえばいい。


 今この瞬間、霊魂系統魔術がこの世界に誕生した。ただそれだけの話だ。


『化け物……。勇者も、魔王閣下も、何もかもを超越している‼ 貴様はこの世界には存在してはいけない化け物だ‼』


「かもしれないな。でも、お前にだけは言われたくねーよ」


 ――スキル効果持続時間15秒。


 そろそろ時間切れか。


「終わりだ、アドラス。お前の魂はこの世から消し去る」


『や、やめろ……! 私はデーモン31柱のアドラス! 人間に滅ぼされてたまるものか! 誰か、誰か助け――』


「〈霊魂呪殺(ソウル・カース)〉」


『やめ――がぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……ぁ………………――』


 最上位霊魂魔術〈霊魂呪殺〉。アドラスの霊魂が青い炎に包まれる。断末魔の叫び声をあげながら、奴の魂は輪廻転生の理からも外れ完全にこの世から消滅した。


 ――スキル効果持続時間0秒。


 全身から力が抜けてその場に倒れこむ。スキルの代償だ。やっぱマジで指先一つ動かせねぇ。


 普段のステータスの筋力値(STR)が140そこそこってことは、1になった今は普段の140分の1の力しか出せないってことだ。


 そりゃ動けねぇわな……。


「りょー君!」


「涼一郎!」


 倒れこんだ俺の元へ、杏璃と皆月が近寄ってくる。杏璃のスキルのおかげか、二人ともある程度は動けるようになっているようだ。


「りょー君大丈夫⁉ ケガしてない⁉」


「急に倒れたけど大丈夫なわけ⁉」


「ああ、なんつーか、スキルの代償みたいなもんだ。しばらくすれば動けるようになる」


 俺がそういうと、杏璃と皆月はふぅと安堵の息を吐く。


 けれど二人とも、視線を周囲に巡らせ怯えた表情を見せている。


 まだアドラスに怯えているのかもしれない。


「大丈夫だ、二人とも。アドラスは完全に滅ぼした。もう奴が俺たちの前に現れることはねーよ」


「ほ、ほんと……?」


「ああ」


 俺が答えると、杏璃の双眸からぽろぽろと涙が零れ落ちた。さっきまであんなに強がっていたくせに。本当は怖かったんじゃねーか。


「りょーくん、りょーくんっ!」


 杏璃が俺の胸に顔を押し付けてくる。おいこら、俺の服で涙を拭こうとするな。鼻水だしてねーだろうな……⁉


「……涼一郎、ありがとう。あんたが来なかったらあたし、杏璃を……」


「皆月、もう大丈夫だ」


「……うん!」


 皆月の目からもまた涙があふれて、杏璃と同じように俺の胸に顔を押し付けてくる。いやだから、俺の服で涙を拭くなって!



「涼一ろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼ 杏璃ちゃああああああああああああああああああああああああああああああああああん‼ 皆月ちゃああああああああああああああああああああああああああああああああああん‼」



 突如轟音が響き渡り天井が崩落したかと思えば、金ぴかの親父が降ってきた。


 おい、下敷きになってたら俺たち死んでたぞ。


「無事か、涼一郎‼ 杏璃ちゃん! 皆月ちゃん! もう安心だ、私が来た‼」


 いやだから、来るのが遅いんだよくそ親父。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る