第8話 スキル発動
――スキル〈異性とキスしたら3分間だけ無敵になる〉を発動。
――以下の効果を取得します。
【HP常時全回復】
【HP無限】
【MP常時全回復】
【MP無限】
【全ステータス限界突破】
【全ステータスカンスト】
【物理攻撃無効】
【魔術攻撃無効】
【全状態異常回復】
【全状態異常無効】
【即死無効】
【全取得可能スキル開放】
【全取得可能魔術開放】
――スキル効果持続時間174秒。
視界の隅に文字列が通り過ぎていく。
それが何なのかを考えるのは後回しだ。
振り下ろされるロズワルドの剣。その切っ先が俺に触れることはなかった。
「なんだ……⁉」
「スキル〈絶対防御領域(イージス)〉。どんな武器も魔術も、俺たちに危害を加えることはできない」
自分に何ができるのか、頭がしっかりと理解している。これがスキルの効果ってわけかよ。チートどころの話じゃねぇ。あまりにも強すぎる。
できることに限界がない。まるで宇宙のように、その先を見ることができない。途方もない彼方。まさに無限だ。
「化け物め……‼」
「……ああ、そうだな」
無敵なんて次元じゃない。これは人間が持っちゃいけない力だ。
人間に制御できない力だ。
少しでも気を抜けば飲み込まれそうになる。溺れてしまいそうになる。
俺の理性をかろうじて繋ぎ止めてくれているのは、俺の頬に手を添える妹だった。
「ぉ……にぃ……」
「ありがとう。よく頑張った、ユリア。〈完全治癒(パーフェクト・ヒーリング)〉」
ユリアの体を、淡い緑色の光が包み込む。
治癒魔術系統の最上位魔術が、ユリアの傷を見る見るうちに治していく。切り裂かれた背中の傷も、右腕の傷も、まるで初めから存在しなかったかのように。
「最上位治癒魔術だと⁉ そんな、バカな……‼」
ロズワルドは慄いて数歩下がり、
「ひ、ひぃっ……」
退路を塞いでいた外套の内の一人が逃げ出す。
察しのいい奴。逃がすわけねーだろ。
俺は闇の魔術で退路を塞ぐと、そのままこの袋小路を魔術で覆いつくした。
闇魔術系統の上位魔術〈暗黒の檻(ダーク・プリズン)〉。
この魔術は外部へあらゆる森羅万象を通さない。
俺なら力尽くで破れるだろうが、こいつらにそれは不可能だ。
スキル〈分析〉によって、一人一人のステータスまで俺には見えている。
「おにいちゃん……? あれ、わたし……」
「痛みはないか、ユリア?」
「は、はい。でも、ここは……」
まだ意識がボーっとしているんだろう。治癒魔術で傷は癒したが、精神的な部分へのダメージまでは癒せていない。こればっかりは、この状態の俺にも難しい部分だ。
下手にフォローすればやり過ぎてしまう。洗脳や自我の書き換えになりかねない。それだけは、絶対に踏み越えちゃいけない領域だ。
「安心しろ、ユリア。あと……三十秒くらいで片付ける」
一秒と言いかけて、ダークドラゴンを前にした親父の顔が頭によぎってやめた。
スキル発動時間はまだ140秒ほど残っている。手加減しなければ一秒もかからないが、まず間違いなく殺しちまうな。それもまた、越えたくないラインだ。
誰も殺さずに制圧するとなれば、だいたい三十秒くらいだろう。
「最上位治癒魔術と上位闇魔術を同時使用だと……⁉ ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるな‼ 我らの望む国に貴様のような化け物は不要だ‼ 皆の者、覚悟を決めろ‼ ここで殺すしかありません‼」
ロズワルドも、外套を着た連中も、全員が剣や弓を構えて俺に向かってくる。
心の奥底では敵わないと知りながら。
それでも、自分たちが望む国を作るために覚悟を決めて。
失った人、失ったもののために。
「……あんたたちのことを否定はしねーよ。けどな、妹を傷つけられて黙ってられるほど、俺はお人好しじゃねーんだわ」
まずは動きを止める。闇魔術〈影縫い〉。これで彼らはその場から動けない。
次に武器を奪う。最上位消滅魔術〈分解〉を彼らの剣や弓に。彼らの剣や弓は分子レベルにまで分解され消滅する。
「ば、化け物がぁあああああああああああああああああッッッ‼‼‼」
外套の一人が叫び声と共に放った光の魔術は、〈絶対防御領域〉のスキルに弾かれる。
「ば、バカな……。こんな、ことが…………」
「終わりだ、ロズワルド。殺したくはない。大人しくしてくれ」
「……舐めるな。我らの覚悟を舐めるなぁあああああああああああああああッッッ‼‼‼」
ロズワルドは鎧の下に仕込んだ爆弾を作動させた。
自爆してまで、俺たちを殺そうっていうのかよ。
ふざっけんな。させるわけねーだろ。
「〈時間停止(ストップ)〉」
最上位時空魔術を発動し、ロズワルドとその周囲の時間を止める。
外套の男たちは恐怖に顔を歪め、その場に膝をついた。もはや抵抗する素振りはない。彼らも外套の下に爆弾を仕込んでいるが、作動させても無駄と察したのだろう。
〈分解〉で彼らの衣服ごと爆弾を消滅させ、植物魔術〈拘束〉で縛り上げる。
これでようやく制圧完了。かかった時間は二十八秒と、概ね予定通りだ。
ふぅ、と息を吐いてユリアに振り返る。
彼女は俺を見つめて驚いた表情を浮かべていた。
そりゃ、そうだよな。
魔術やスキルを使えば、ユリアが俺をどう思っているか手に取るようにわかってしまう。
だから、使わない。
きっと、怖がられてるだろうな。もしかしたらロズワルドたちみたいに、俺のことを化け物だと思ってるかもしれない。それを知るのが、たまらなく怖かった。
「あ、あの……。その……っ」
ユリアは俺の傍まで来て、何かを言おうと逡巡した様子を見せる。
この反応、やっぱり俺のことを怖がってるのか……?
「あ、と。えっと、お、お……、おに……」
「鬼?」
ああ、やっぱり鬼みたいな化け物だって思ってるのか。
そりゃそうだよなー……。
「おにい――」
「涼一ろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ‼ ユリアぁあああああああああああああああああああああああああああああッッッ‼‼‼ 無事かぁああああああああああああああああああああああああああああああッッッ‼‼‼」
ユリアが何かを言いかけたその時、俺の〈暗黒の檻〉を切り裂いて金ぴかの親父が降ってきた。
「無事か、涼一郎! ユリア! もう安心だ、私が来た‼」
「いや、おせーよ」
もう終わったわ、くそ親父。
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