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大学からの帰り道、翻訳のスクールに通いたいことを親に相談するかどうかを未だに悩み続けたまま自転車をこいでいた。家のすぐ近くにあるスーパーの前を通り過ぎようとしたとき、そんな心ここにあらずな私の目にも留まるほどの異様なポスターが貼られていることに気がついた。
それは、求人募集のポスターで、ポスターというよりもただの貼り紙と言った方が適切だった。こんなの、見たことがない。嫌がらせの落書きが貼られているのかと思うほどのクオリティの低さ。手書きにしても、大学のサークル勧誘のチラシの方が100倍ちゃんとしている。油性マーカーで、お世辞にも綺麗とは言えない字で大きく”急募”と書かれ、赤いギザギザの吹き出しで囲まれているセンスの悪さ。スーパーが紺と白を基調とした割とおしゃれな外観なので、余計にミスマッチで悪目立ちしている。でも、こうして立ち止まって見てしまっているから、ある意味成功なのかも。下に時給と勤務時間について書かれているところまではいいが、その下に書かれている内容がひどかった。
《この間まで働いてくれていた人が、近所の某大手コンビニFマートで働いているのを見たときは、僕は本当に悲しかったです...キングマーケットは24時間営業ではないので、深夜働いた方が稼げるもんね。時給が安くてごめんね。そうでなくても、スーパーのバイトってダサいイメージありますよね...みんなおしゃれなカフェとかで働きたいですよね...猫の手も借りたいとはこのことです。このまま人が増えなかったら、本当に猫を飼います。》
文章の下には電話番号と、赤いペンで全然可愛くない不格好な猫の絵が描かれていた。なんで赤を選んだ?ちょっとしたホラーだよ。いや、そもそもここに猫の絵は必要ない!
本当に人手不足で困っているのか、ネタなのか(ネタだとしたらスベっている)。バイトを辞めてしまった人がどこで働いているのかこんなにわかりやすく書いていいのか。これってむしろネガキャンになってないのか。
まぁ、私には関係のないことだ。スーパーのような慌ただしい環境で接客なんて絶対にできないし、クレームをつけてくるお客さんも多そうだし、ベテランの口うるさいパートの人がいたりして職場の人間関係も大変そう。全部想像だけど。あまりにも難易度が高すぎる。私なんかよりも、猫の手の方が優秀だと思う。
やっぱり私に勤まるバイトなんてないし、親に相談するしかないかなと、肩を落として家に帰った。
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