反時計回り

5-1

昨日は泣き疲れて、いつの間にか眠ってしまっていたみたいだった。テーブルに転がった空き缶をまとめて、ゴミ置き場に捨てに行った。空は一面灰色の雲で覆われていた。

食欲はなく、何もやる気が起きなかったが、気を紛らわせるために部屋の掃除を始めた。とりあえず捨てずに置いておいた大学の講義のプリントを、必要なものだけファイリングしたり、本棚に適当にしまっていた教科書や小説を一度全部出して、固く絞った雑巾で棚を拭いてから、ジャンルごとに並ぶように一から並べ直したりした。


ちょうど13時になったとき、突然スマホが鳴った。画面を見ると知らない携帯番号からの着信だったので、警戒しながら応答ボタンを押した。

「はい」

「もしもし?キングマーケットの本城です。ごめん今電話大丈夫だった?」

個人携帯でかけてきたから出るまでわからなかったが、相手は二度と話すことのないと思っていた、キングマーケットの店長だった。

「ちょっとだけ話してもいいかな?」

わざわざ不採用の連絡をしてきたのだろうか。もう、いいのに。言われなくてもわかっている。

「何でしょうか?」

泣きそうになっているのをごまかしながら喋ったせいで、思いのほかきつい言い方になってしまった。

「昨日聞けなかったシフトの話とかをしたいんだけど、今度いつ来られるかな?」

「え?」

何を言っているのか意味がわからなくて、また怪訝な声を出してしまった。

「...そんなに人手が足りないんですか?」

嫌味っぽく聞いてしまった。だって、どんなに忙しくても、普通に考えて私を雇おうなんて誰も思わない。

「あ!全然そういう意味じゃないよ!忙しかったら、全然1ヶ月後とかでもいいし。テストとか?あ!もうじき文化祭かな?準備とか大変だよね?全然急かすつもりはなかったんだ!」

店長は私の質問を違う意味で捉えたみたいだった。

「忙しくないので、だいじょうぶ、です」

「そっか!良かった!じゃあ、また土曜日の13時に来てくれる?」

「わかりました」

「よし!待ってるからね。お休みのところごめんね。じゃあ、またね!」

「...失礼します」

店長は私の方から電話を切るのを待っているみたいだった。前回もそうだったっけ?そうか、前は私がすぐに切ってしまったんだ。

電話を切ると、締め切ったカーテンの隙間から微かに光が漏れて、床に反射していた。勢いよくカーテンを開けると、外は眩しく、いつの間にか青空に変わっていた。

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