誰からも必要とされない
2-1
私でも働けそうなところ。最初に思いついたのは書店だった。レジ対応はしなくてはならないだろうが、ほかの場面でお客さんに話しかけられることはほぼなさそう。静かな場所で慌ただしさもなく、働いている人も穏やかな人が多いイメージ。昔から本は好きなので、苦にならずに働けるかもしれない。早速ネットで求人募集を探して、家から近い武蔵境駅周辺の書店を見つけて応募した。
数時間後に突然電話が鳴った。電話なんて、母親か、携帯電話会社からの勧誘しか出たことがない。アドレス帳に登録されているのも両親だけだ。恐る恐る、応答ボタンを押した。
「はい」
「あー教林堂の西村と申しますー。小坂史帆さんの携帯でお間違いないですかぁー?」
「あ…はい」
電話がかかってくるという心構えができていなかったので、返事をするだけでも声が震えた。
「今回は応募いただきありがとうございますー。早速面接を行いたいのですが、明日何時なら来れますかぁー?」
「あ、えっと…じゅ、18時以降なら」
「じゃー18時に来てください。履歴書と、筆記用具と、身分証、あと印鑑ね。忘れずに」
「は、はい」
「じゃー明日18時にお願いしまーす」
「あ…はい…よろ」
最後まで言い終える前に電話は切れてしまった。忙しい時間帯だったのか、終始とてもぶっきらぼうな話し方だった。明日の面接でも、今の人と話さなくてはいけないのだろうか。小学校高学年の頃から、できる限りのコミュニケーションを避けていた分、言いようのない大きな不安に襲われる。今まで凍ってしまったときの記憶が呼び起こされた。凍った私を見たときの、みんなの反応。戸惑って慌てたり、気味の悪そうな顔をしたり、怒り出したり、逃げ出したり。私と話をして得をしたり、ましてや楽しい気持ちになる人なんて誰もいない。それなのに、自分が生きるためには、誰かと会話をしなくてはならない。他人に迷惑を欠けてまで、生きていく意味が私にはわからなかった。
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