前代未聞の求人ポスター
3-1
なんとか気持ちを立て直して軽作業バイトの面接にも臨んだけど、結果は同じだった。どうしても、知らない人を目の前にするとまた凍ってしまうのが怖くて、考えれば考えるほど体が動かなくなって、まずいと思うとどんどん焦ってしまって、悪循環に陥ってしまう。
面接がダメならと、イベントバイトの派遣会社に登録しようとした。単発なのであまり稼げないかもしれないけど、面接はなく、登録会に行って説明を聞き、書類を提出するだけのようなので、さすがの私でも登録くらいはできるだろうと思っていた。でも最後の最後、登録に必要な書類を提出する際に、チャラそうな男性スタッフに「ついでに今入る仕事決めていきませんか?」と勧められ、どんな現場に入りたいかを伝えることができずパニックになってしまった。なんとか「体調が悪い」という言葉を絞り出し、急いで逃げ出してきたものの、それがトラウマみたいになってもう一度登録しに行こうという気にはなれなかった。
どうして私は、みんな当たり前にできていることができないんだろう?ただ普通の大学生活を送りたいだけなのに、どうして上手くいかないのだろう?30万稼ぐことが、どうしてこんなに難しいのだろう?バイトができないということは、私はダメな人間だとレッテルを貼られるのと同時に、自分の将来を潰すことにもなる。絶望的だった。
やっぱり両親に頼ろうと思って、何度も連絡しようとしたができなかった。これ以上わがままを言うのは申し訳ないし、自分の娘はバイトすら受からない社会不適合者だということを知られたくなかった。大人しい性格であることはわかっていると思うが、今までも学校生活のことなどは話さないようにしていた。勉強が忙しいからバイトできなくて、社会人になったら返すから、と弁明してお金を借りることも考えたが、もう両親に嘘はつきたくなかった。
いても立ってもいられず、冷蔵庫から缶を取り出し、蓋を開けてそのまま口に運んだ。
最近、家で1人でお酒を飲むことが増えてきた。6月に20歳の誕生日を迎えて、そのときに両親と飲んだお酒がとても美味しくて、自分1人でも買うようになった。初めはアルコール度数の低いカクテル系を飲んでいたが、ある日、可愛い猫の絵柄が気になって思わず買ってしまったクラフトビールに衝撃を受けた。それからは、いろいろなクラフトビールを買って飲み比べをしている。
今開けたのは、インディアペールエールという種類のクラフトビール。名前の由来は、その昔イギリスからインドまでビールを運ぶ際に、腐敗しないようにホップを大量投入したことから。グレープフルーツのような爽やかな香りからは想像もつかない、ガツンとくる強烈な苦さがクセになる。しかもアルコール度数は7.0%と高めで、飲み過ぎは禁物。と言っても、私はお酒が強いみたいで、あまり酔わないタイプだ。でも飲めば、体が温かくなって、悩んでいたことがスッと消えていくような感覚が心地良い。嫌なことを考えなくて済むように、念のためもう1本だけ開けて、そのままベッドに入って眠りについた。
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