第24話 本当の気持ちはすぐそこに……!
そうだよ。どちらを選ぶのか、迷ったならば。お茶丸が希望する方を選べば良い。
「それで僕はいいよ」
「あっ、けどそれが嫌……ってえっ?」
「だから、終わったらデート。ありがたく、デートを受け入れさせてもらうよ」
「ほんと!?」
彼女の頬が一気に緩んで、「えへっ」と笑っていた。この笑顔が見たくって、僕は話の続きを口にした。
「成功の仕方によって報酬が変わってもいいかな?」
「えっ、報酬って? へましたら……デートはなしってこと……?」
しまった。彼女が変な勘違いをまたしてしまう。彼女の顔が硬直する前に僕は早口で自分の考えを説明した。
「あっ、そういうことじゃなくて。作戦が僕の活躍によって、フミが笑顔で終わったら……何か奢ってもらおうかなって」
その言葉で彼女は安心したのか。僕の背中を軽くポンポン叩きながら、満面の笑みを見せつけてきた。
「何だ! そういうことだったの! いいよいいよ! 逆に私がとんでもない奇跡起こしたら、ケーキ奢ってよ! 奢って奢って!」
ヤバい……。
この笑顔、だんだん目が当てられなくなってきてる。彼女の顔が直視できない。直面すると、顔が熱くなってしまう。
彼女を好きになる資格はないはずなのに……。でも、やはり……僕は彼女が……好きだったんだ。
僕は頭を抑え、すぐさま机に顔を当てていた。
「うっ……」
「ど、どうしたの!? 立春くん!?」
「いや、ちょっと色々と焦っててね……」
「あっ、そういうことなら!」
彼女は湯飲みの中に自分が持ってきた水筒のお茶を入れて手渡してきた。僕は彼女に頭を下げてから、すぐさま飲み干した。とても優しい味わい、冷たい感触が喉の奥を通っていく。
「ありがと。何とか、落ち着いてきたよ」
彼女から顔を逸らしつつも、そう伝えておく。
「テアニンのおかげだね! テアニン、テアニン、テアニンニンニン! テアテアニンニン、テアニンニン!」
テアニン。脳の興奮を抑え、リラックスさせる効果がある。精神作用と彼女のほんわかとした笑顔で何とか、この場はやり過ごすことができた。
後、思い出が何とかしてくれたのかもしれない。
ふと蘇ったのが、彼女が初めて僕へ入れてくれたお茶のこと。初めて出逢ったその日に僕へ入れてくれたお茶。入れる茶葉の量が少なかったせいか、味が薄かった。だけれど彼女が笑顔で入れてくるものだから、味なんてどうでも良くなっていた。
その時のことを思い出して、心がほんわかしたから、落ち着いた。
しかし、あの時のことを考えるのは逆効果だったかもしれない。
後から「恋愛とか、恋する資格とか考えなかった、あの時の方が良かった」、「彼女ともっと近くにいれる関係にもなりたい」、その二つの気持ちが心の中で葛藤し始めた。心がむずむずしてたまらない。胃もたれの方がかなりマシな気がする。
……ダメだ。
とにかく、今は違うことを考えよう。
そうだ。僕が言いたいことは……。えっと、ええっと……!
「お、お腹すいた」
「さっきお菓子たくさん食べてたけど、まあ、お茶を飲んで消化が良くなっちゃったかな」
違う。言いたいのはこういうのじゃない。お腹すいたって今、絶対選ぶ言葉じゃなかった。ではなくて、僕がやるべきことは……決めることは、ただ一つ。
デートもそうだけれど。その前に自分の気持ちを整理したいから、彼女に僕の本当の気持ちを伝えておきたい。お茶丸を理解できていない、そんなところもあるけれど。何とかできるはず。
だから、こう言った。
「デートの前にさ、ちょっと言いたいことがあるんだけど、月曜日、時間ある?」
月曜日。あの作戦が成功したら、自分の気持ちを伝えるべきだ。成功しなかった時……その時はその時で考えるとして。今は何もかもが巧く行くと考えよう。お茶丸だって笑顔で信じてるじゃないか!
「ん? あるよ! 何の話か、楽しみにしておくね!」
これでチャンスが……僕の気持ちを彼女に伝える機会が……! そう思ったと同時に廊下から「クスクスクスクス」と笑い声が聞こえてくる。新美、最初から最後まで全部聞いてやがったな……!
「クスクス……青春してるわね。最近の高校生はすぐ恋愛恋愛、若いっていいわね!」
僕はお茶丸がそばにいるのも忘れて、そちらのツッコミに徹していた。
「お前も高校生じゃねえか! ってか、一番恋愛恋愛って言ってるのお前だろっ!」
そんなこんなで作戦決行日の土曜日はやってくる。あれから少しお茶丸と喋りづらくなったような気もする。あの放課後のことで少し彼女のことを意識してしまい、どうしても彼女と一緒に口を動かせなくなってしまう。彼女の顔すらも眩しくて見えなくなる時がある。
まあ、それは今日と明日と明後日が終われば何とかなるはずだ。
その日のために何度もイメージトレーニングをしてきた。全て巧く行き、告白まで成功するシーンを。夢の中でも履修をしておいたから問題はないと思うけれど。
理想と現実は違う。何度も思い知らせれてきた言葉だ。
ついでに新美からもスマートフォンのメールで念押しされている。『ちゃんと気を付けなさいよ。今日はワタシは予定外のことをする意味がないし。ちゃんと安心しなさいな!』、『お茶丸との恋はもう分かってるからね』、『あれ、ちゃんと見てる?』、『既読はしてないみたいだけど』、『ちょっとちょっと!』、『準備は万端よね!』、『あれ見てないの!?』、『おーい、生きてる!?』、『あれ、既読付いた!』、『えっ!? あれ? えっ、ちょ!』、『ワタシを見て―!』。
後々、五十件位送られてきている。夜中零時に新美が送ってきて、途中で僕が既読付けて眠ったせいで変なメッセージが増えてしまったのだ。え、何これ、怖い。メンヘラかヤンデレかな? 最初はそう思ったが、結局は全部読んでいた。
最後は『あっ、そっか、もう寝てるのか』なんてなっている。最初にそれ気付いてほしかったな。その文章を読むだけで肩が凝り、ついでに足も動きたくなくなっていた。
疲れた……。
しかし、お茶丸の顔を思い浮かべれば強制的にでも体は動く。頑張ろう。そう何度も呟いて、一日の準備をする。
気持ちを整え、自転車に乗って。集合先はお茶丸の家だ。山のふもとにある大きな屋敷みたいなもので、僕はその家を見ながらお茶丸が現れるのを待っていた。
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