第21話 最後の作戦決行決定!

 決意を偽造? おや、頭がショートするところだった。


「どういうこと?」

「どういうことが多いわね。自分で考えろって言いたいけど。まぁ、いいわ。寛容だから説明してあげる」

「自分で寛容という辺り、普段とても傲慢知己な……って、話の最中に股間に蹴りを入れるな」


 新美の蹴りを見切る。一瞬で後ろに下がらなかったら、絶望的な痛みが僕を襲っていたであろう。言葉の使い方にも気を付けなければ……。そんな茶番はさておきという感じで、新美は話を続けていた。


「やっぱり、フミにキサラギを嫌いになってもらうのが一番かなって思うのよ。意外ともろいかも……当然、キサラギには犠牲になってもらう必要があるし、フミには……」

「そっか。傷付くことになるかもだけど、普通にフラれるよりは……マシかもね」


 計画としては、フミにキサラギの何かで幻滅させる。下品なことで彼の名誉を汚すのはダメ。何か一つ。彼女の恋を冷ます出来事を作れば、良し。これでお茶丸が汚したラブレターの件も完全に消えていく。

 やっと、だよ。

 ようやく僕もお茶丸も平穏な毎日を取り戻すことができる。なんてことない日常の隙間に合った放課後のお茶会を楽しめるのだ。


「じゃあ、とにかく今話したことをお茶丸にも伝えないと、だな」


 僕の発言に新美が賛成する。次の作戦を決行するためにも必要不可欠なお茶丸。彼女と一緒に犯してしまった過ちを隠したいからね。


「ええ! じゃあ、ワタシが仕切るから、そのつもりでよろしく!」

「今度は僕に内緒で何か物事を進めようとするんじゃないぞ。こっちはこっちでお茶丸を理解できるようにするから、くれぐれも変なことはしないように!」

「わ、分かってるわよ! 今度はぐぐ……失敗しないようにいろんなことを想定しとくからっ!」


 そう言って新美はニヤリと笑う。


「えっ、今どう見ても何かやろうとしてるよね!? えっ? 新美? 絶対僕の言ったこと分かってないよね!?」

「あはは……」


 笑って誤魔化そうとしてるけれど、企みはバレバレだからな。油断も隙もない。それどころか、コイツ人としての常識もなさそうだぞ。

 そんなことで言い合ってた僕達の元に誰かが近づいてきた。足音に身を構えた僕と新美は、こちらに来る人影の方へと振り返る。


「あっ……」


 最初に声を上げたのは新美。新美の視線の先にいたのは、風下教諭だった。教諭の後ろでキンコンカンコン鳴っているのは……学校のチャイム。


「あっ……」


 僕もその事実にピンと来て。体が固まった。

 風下教諭は僕と新美の頭にノートを乗せていく。


「二人共、遅刻だ。後、そこで言い争うな。自分のクラスの教え子が二人でってなると、他の教員から何言われるか分かんないし。せめて、トイレとかそういったところでやってくれ」


 僕と新美が無言のままでいると、彼女は新美に一つ付け足した。


「そのノートと職員室にあるプリントを教室まで運んどいて」


 風下教諭がそのまま振り返ったから、僕には何もコメントがないのか。そう安心しようとしたところで、言葉は飛んできた。


「お前、恋人対象をチャナから新美に移し替えたのか? 盛んなこったな」


 ……違うと否定しようと思ったが、風下教諭は俊敏な動きで走り去ってしまった。


「……新美、これって誤解を何とかするべき……だよな?」

「早急にね。あの先生、どうでもいいところだけ面倒臭がらないから。きっと言うよ。お茶丸に『どういう経緯で別れた? 喧嘩したのか』って」

「そのなる前に……どんな手を使ってでも」

「止めないといけないわね」


 やれやれ、やることは多いらしい。忙しくなるぞっと。



 そんなこんなで時間は過ぎていって。昼休みの中盤に廊下へとお茶丸を呼び出した。

 お茶丸にキサラギの真実を伝えておくためだ。彼女がその言葉を冷静に受け止めてくれるのか不安だった。今までやってきたことがパァーになることの重大さに「あわわわ!? あわ!?」と大慌てになる姿が目に見えていたのだ。

 しかし、予測とは違った。彼女は嫌な顔一つ見せずに頷いている。


「そこに行き着いたんだ」

 あまりに大人しい彼女の対応に違和感を覚えざるを得ない。すぐさま彼女に問い掛けていた。

「どうしたんだ? お茶丸?」

「どうしたって? 何が?」

「いや、あんまりにも冷静だったからさ。まるで起こるのが分かってたみたいな」

「違うよ。いきなり聞いたけど……そんな予感はしてたからさ」


 お茶丸は続けてこう語る。「思いがけないことが起きる気はしてたんだ。フミちゃんの顔見てたらさ。何か意味ありげな顔してたし」と。


「意味ありげ? フミもそれが分かってたかもってことか?」

「かもじゃないんだよ。絶対でもないし、きっとでもない。何か、私に言わないこと、感情か何かがあったと思ったんだよ。昨日一緒に帰ったときね。フミちゃんの方が『キサラギくんのこと、あんまり好きじゃないかも』って言い始めるかなって思ってたんだけど、違ったね」


 お茶丸は二人が最後にどうなるかを予感していたのか。ただ、フミがあんなにお守りを使って気合たっぷりのラブレターを作ったのに好きじゃないというのは……まあ、乙女心は複雑だ。分からなくても仕方がないか。

 とにかくこれなら、一安心と教室に戻ろうとしたのだが。お茶丸が膝から崩れ落ちるのを見てしまう。


「頑張ったのに……残念だよね。私はともかく、私を助けようとして頑張ってくれた立春くんも新美ちゃんの努力も何か、全部水の泡になっちゃって……」


 彼女の落ち込んだ様子は見ているだけで、心がきゅんとなってくる。見ているだけで切なくなる。これ以上見ていられないと思った僕は、ただただ言葉を吐いていた。その場しのぎの励ましを……。


「そんなことないよ。僕とお茶丸も楽しめたんじゃないかな。キサラギとも話をしてさ、明るい人間と話もでき、慣れたんじゃないかな。少し」


 心になんて思ってもいない嘘を使って、気付けばまた彼女を我慢させていた。この棒読みの言葉に気を遣わせ、本当は辛い彼女の気持ちを理解してあげられなかった。

 やはり、彼女のことは分かっていても理解はできていない。

 何故、僕は理解できない。

 理解しようとこうして頭を働かせているのに。理解できているのか、いないのかも実際分からない。

 待て……僕は何で彼女を……。やはり、そうなんだよなと自分の心に気付いた時には頭が真っ白になっていた。


「おーい! 立春くん、意識どっか行方不明になってない? ちょっ!? つ、冷たい!?」

「ん……?」

「良かった。冷たくなってたから、もうこっちの世界に戻ってこないと思ってた……」


 ええ……単に考え事してただけなのに、そんなに慌てられるとは……。えっ、気付かないうちに幽体離脱していたのかな……僕……えっ、怖い! どういうこと!?

 まあ、今生きてるから大丈夫か。

 僕の意識がこうして戻っていることを知って、彼女はにこやかな笑顔を見せてきた。


「アハハ……大丈夫だよ……たぶん、意識は戻らないことはないと思う……」

「ならいいけど……もっとリラックスリラックス。今日の放課後もお茶会して、これからの作戦を決めていこ!」

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