最終話

 ちゃんと言ったんだけれど。

 物事は思うように進まない。月曜日に彼女は学校へは来なかった。風下教諭のことによると、まだ怪我が……とのことだが。

 心配で心配で……今度は本当に眠れない夜を過ごしてしまう。

 彼女にスマートフォンで電話しようにも、コールをすることが彼女の負担になるのではないか。そう思い、スマートフォンを自分の手から転がした。

 何度も何度も乾く喉を茶で潤して(後で気付いたが、最近眠れない理由の一割はこれにあったんじゃないか……)夜を過ごしていく。

 次の日もぼけーっとしてしまったようで。授業中に風下教諭から「おい! ボケッとしてると、全問指摘するけどいいか?」と確認を取られてしまった。いけないいけない。しっかり授業を受けとかなくちゃ。

 休み時間には新美と話をした。彼女なら来ない理由を知っているのではないか、と。


「まだ怪我の痛みが取れないらしいわ」


 病院ではあんなに元気に振る舞ってたのに。もしかして、それは建前では……なんて。疑う必要はないか。思考をストップさせれば、良いだけの話。


 放課後になる。フミが「今日は放課後お茶会に参加させてもらってもいいですか?」と尋ねてきたものだから、僕が急いで店に菓子やら茶などを買っていく。途中でキサラギにも会って。部活が休みだと言うから、強引に誘わせてもらった。

 新美も来るようだし。数がたくさんいた方がお茶会も盛り上がるだろうから。


「でも、言っていいのかい? フミとは」

「フミのことはもう終わったよ。彼女も吹っ切れたし」

「それは良かった。彼女とは友達でいられるかな……」

「どうなんだろ? もう恋しないように直視されないかもよ」

「あはは……まあ、昨日一応話はしたから大丈夫だとは思うけどね」


 そんなこんなで話しながら戻っていると、途中で廊下を歩く風下教諭と直面した。


「あっ、先生」

「立春。今から部活に行こうと思ったんだ。一杯やりたい。お茶を淹れてくれるか?」

「ついでに淹れてあげますから! 安心してくださいって!」

「ついでに、か。じゃ、お願いするぞ」


 あれ……でも、おかしいな。風下教諭は教室に背を向けていた。部活に行こうと歩いていた方向ではなかったように思うが……僕に会ったから、お茶を飲む気になったのかな?

 まあ、いいや。

 二人を引きつれて、教室に戻る。……いた。そこには、お茶丸がいた。


「えっ? あれ、お茶丸!? 大丈夫なの!? えっ!?」


 彼女は僕達にお茶を淹れていた。急須片手に六人の湯飲みへとお茶を注いでいる。


「立春くん! 心配かけてごめんね! 昨日は足が痛くて……今日まで様子見ってことだったんだけど……風下教諭にOK貰って、来ちゃいました!」


 ああ、そういうこと。つまりは僕を教室に誘おうとして、風下教諭は教室に背を向けていた。僕を探すために、か。この先生も手強いな……。そういや……前に春巻きにされるとか言ってた


 まあ、良しだ。みんなでお茶を飲んで、お茶丸と話をして。

 みんなの前で告白と言うのは、恥ずかしいから。そういうことで僕はお茶丸を一気に連れ出した。バームクーヘン片手に持ってたところなのは申し訳ないが。これ以上、告白を先延ばしにはしたくなかったから。

 後ろから四人がこそこそついてきているが……気にしない、気にしない。

 場所は体育館の横とかがいいかな。あそこなら、ひっそりしてて誰もいないし。あっ、でも別にやましいことをするわけじゃないからね!


「何か、やることやること巧くいかないね。立春くんは月曜日に話したかったはずだったのに!」

「でも、それって僕達らしくて、いいんじゃないかな。って、それとも、お茶丸が何かを隠してるから、まだできないことがあるんじゃない?」

「あはは! どうだろうね?」


 いいさ。何を隠しているかは、たぶん、そろそろ分かる頃。

 体育館に辿り着いて。心の準備は時間の無駄。心に言い訳すらさせず、僕は自分の想いを彼女に放っていた。


「お茶丸、こんな僕だけど君のことが好きなんだ! 付き合って……くれっ!」


 心の中が温まる。彼女は僕に対して、温かい視線を送ってくれる。優しい笑顔が僕の胸打つ音を加速させた。


 お茶丸が口を開く。

 

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チャチャチャ、茶々っ子、お茶丸さんとちゃっかり応援……誰の恋!? 夜野 舞斗 @okoshino

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