第30話 物語の真実
「はい。何か、重要なことなんですね」
フミの言葉が重く響き、お茶丸が話しを続ける。
「うん……まず、ラブレターの件なんだけどね……本当にごめん。ごめんね……あのラブレター、私のミスで使い物にならなくしちゃったんだ……あの大切なラブレター」
言葉を放った後に訪れる束の間の無言。
やっと、お茶丸が告白した。それに対してフミが怒るか、怒らないか。分からない。ただ、今は秘密を明かすべき時だと思ったんだ。秘密を隠しすぎたことで昨日のようなことも起きたわけだし。
最近、何をやっても巧くいかない。告白の作戦を何度考えても失敗する。インチキだって誰かにバレてしまう。
そりゃ、そうだ。不慣れなことをやり続けているんだから。僕もそうだけど特に、お茶丸。純粋な彼女が苦手であろう隠し事を持って、何かに取り組んでいたのだから。心が荒れているから、何に対しても過敏に驚いたり、心の苦しみを感じていたりして。やりたいことが、挑戦していることが失敗するのも当たり前。
それを失くすためにも、今、秘密を壊す。
フミがずっと黙っているのは、お茶丸に一気に文句をぶつけようと言葉を考えているのからか。そう思った僕がお茶丸を弁護しようとした。
「あっ、待って。お茶丸は……本当に悪気があってやった訳じゃあ」
「いえ……問題はないです。教えてくれてありがとうございます。ずっとこれで正しいのか、って考えてました」
僕の言葉を遮って、フミはお茶丸に一礼をした。その顔には少しの曇りもない。僕達が思っていた未練らしさが全くなくて、逆にこっちの心がもやもやしてきそうだ。あれだけのご執心は消えてしまったのか。
その疑問をお茶丸がぶつける。
「あ、あれ? フミちゃん? だって、えっ、そのために盛り上げてきたんだけど……」
「い、いえ。その分の御礼は後々、しっかりさせてもらいます! 申し訳ありません。あ、後、勝手ににこの部活を恋愛の部活だと勘違いしてしまって」
「ああ……それは風下先生のせいだから気にしないでね……って、そうじゃない。確かに私達は告白を諦めてもらいたかったんだけど、フミちゃん自身が自分で諦めて良かったのかなって」
話が少しややこしくなってるから、頭の中で整理しよう。フミにはキサラギの恋を諦めてもらいたかった。だけれど、フミがそれまで熱心にやってきたアプローチは何だったのかって話だろう。
「二人のご様子をちょっと後ろから見てたんですけど」
「えっ?」
「んっ?」
僕とお茶丸の話になって不意を突かれたのは言うまでもない。口をポカンと開けている僕達に彼女はとんでもない言葉を投げ掛けてきた。
「時々、廊下から見てたんです。楽しそうに告白の作戦を練ってるところ。一緒になって、わいわいして。時に笑顔を見せ合って。そんなこと見てたら、自分が一方的に好きでいるよりももっと幸せな恋があるんじゃないかなって思って。気持ちも冷めてったんです」
僕もお茶丸も黙ってしまう。
「ああいう熱心な恋がしたいと……そう思ったんですよ」
そんな話はやめてくれ。僕とお茶丸の眼が合わせづらくなるじゃないか。頬なんて熱々になって、解けていきそうだ。そんな様子にフミは笑いながら話を続ける。
「諦めてほしいって何があったんですか?」
「ああ……それはまあ、キサラギくんにはもう、とっくに愛し合ってる相手がいたって……」
お茶丸は当分、喋れないみたいだから僕が説明をさせてもらう。フミは僕が考えていたことに反し、その真実に笑顔で応えていた。
「良かったです。それなら、もう残るものはなく、あたしは身を引きます。それでまた、恋がしたいと思うんです。今度は他の人の手を借りず、自分の手でちゃんとその方にアプローチして。二人みたいに」
だからフミ……僕達を憧れの新婚さんみたいに扱うのはやめてくれ。お茶丸なんてもう発火しそうだ。……僕も照れすぎるあまり窓を開けて、そちらから逃げようとしてしまったじゃないか。ここ三階だよ。
……でも、まぁ、解決できた。これでハッピーなんだ。
ハッピーなんだよ。今まで僕やお茶丸がやってきた過程でフミは成長できたわけだし。こういう関係と結びたいと思ってくれた。
……お茶丸が不意に問う。
「ところでさ、何で立春くんってフミちゃんを最初から呼び捨てだったの?」
「えっ……?」
お茶丸の言葉にふと問われた原因であろう一言が記憶の中から呼び覚まされる。
『ほら、フミって子の告白に最高の舞台を作るって約束。まさか忘れてるんじゃないだろ?』
心の中だけで呼び捨てにしていたつもりだったが、気付かない間に口から呼び捨てで出ていたようだ。呼び方、か。それでバレるとは思わなかった。フミは黙って僕を見続ける。どうやら、この秘密を明かすのは僕の方が口からの方が良いのかな……。
「分かった……フミは、今まで僕の知り合いだったから。一応、いろんなことを相談するね」
そう。僕は今まで、お茶丸に対する関係のことも時々、フミに話していた。男女の仲と言える程ではないが、分からない心に関してはフミにアドバイスをもらって。
「元々、知ってったってことなんだ? でも、何でそれを隠す必要があったの?」
更にギクッてなる言葉を突きつけてきますか。
隠した理由は、簡単。彼女と僕の関係を知られ、お茶丸に「二人は仲良しなんだ。私は身を引くね」と思われたくなかったから。あれ、でも……そうなるとおかしくないか。
自分の中で疑念が湧く。
自分の中では彼女を好きになる資格がないと思っていたじゃないか。何故、隠したんだろう。
いや、簡単だ。
どう考えてもこれしかない。
資格がない。それは単なる言い訳だった。自分の伝えるべき想いをお茶丸に言わない理由をただ、過去のトラブルのせいにしていただけ。自分の気持ちを自分自身で偽ってただけ。
何より、最低なことじゃないか。
理解していないから……だって? 笑わせてくれる。それすらも自分自身の醜い言い訳じゃないか……。
僕は頭を抱えながら、お茶丸と向き合った。
「その理由は、明日の放課後に。ちゃんと説明させてほしいんだっ!」
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