第11話 告白大作戦本格始動!

 キサラギくんはこう告げる。


「とにかく、俺がフミって子と話してみるまで分かんないけど……その子がどうすれば、俺の好みに合うかって聞いてるんだよな?」

「はい。女の子にあまり興味がないって聞いたものだから。尊敬する異性とかを教えてほしいんです。いや、こっちの命が危ういので教えろください」

「おいおい……強引になってきてるぞ。尊敬……か。す、好きなタイプだは……そのなぁ……風下教諭……」


 ……ふむ?


「……本当は?」

「だから、君のクラスの担任、風下教諭……」

「えっと、英語ができるところ?」

「それとカッコいいところ」


 ……いや、フミと風下教諭の性格が月と太陽位違うと思うのだが、そこはどうフミの性格を改善するべきか。いやいや、この事実をフミに伝えたら、どうなるか。フミの性格として風下教諭を狩るかもしれないな……。

 厄介なことになってきたぞ。

 ともかくフミを風下教諭の性格に変えるには無理がある。いや、よくよく考えてみたら、僕達はフミの性格を全くと叫んでもいい程知らない。ラブレターの装飾だけで彼女の性格を恋に病んでる女の子と決めつけてしまったが。もしかしたら、その装飾を誰かにやってもらった可能性もあるし。

 本当ならもっと純粋な女の子かもしれない。

 そんな考えをお茶丸に素早く伝えていたが、素朴な反応しか返ってこなかった。


「そうか……」

「お茶丸? さっきまで慌ててなかった?」

「う、うん……」

「あっ、もう養分吸い取られてる?」

「うん……」


 そうか。手遅れか。逆にそれなら正しい判断ができるのではないかな、と質問を突き付けてみた。


「じゃあ、どうするべきかな?」

「直接ご対面して、話してみるしかないかなって思うよ。運命の赤い糸、意外とピンと繋がってるかもしれないし」

「もし、失敗したら僕達が赤くなるかもだけど」

「ふ、不吉なこと言わないでよ……」


 僕だって嫌なことは言いたくないけど、「あんなこと予想してなかったんだよ!」と後悔しないために喋っておく。不安を煽るだけでほとんど意味がない行為のような気もするが。

 後ろ向きな言葉を取り払い、自分達の意向をキサラギくんに話してみた。


「キサラギくん。新美のワガママだと思ってさ、ちょっと今日か、明日の夜、付き合ってくれませんか?」

「明日の夜ならいいけど……つ、付き合う? えっ? 君と僕? 付き合うって交際しろってこと? お、男同士で?」

「ううん、今の話でちゃんと察してくれれば良かったんだけど……まっ、確かに新美なら言い出しかねないから、仕方ないか。って、そうじゃなくて、何て言うかフミのことを紹介したいんですよ」


 まあ、言い方を変えれば、合コンみたいなものだが。それでフミとキサラギくんを無理にでもくっつけてしまえば、僕達の仕事は終了だ。フミが僕達を恨む理由は万に一つもない状態。

 やっと、だ。やっと希望の道が開いてきた。急に決まってしまった予定だが、スケジュールを調整してもらうのはお茶丸と新美とフミの三人だけだ。そのことを謝りながらもなんとか計画が成功するように尽くしてもらおう。



 だとしても、キサラギくんとフミを連れていく場所が問題だ。場所によっては失敗する可能性もある。例えば、酒が出る店。酔っ払いに絡まれて、告白シーンがぶち壊しになったらどうするのか。

 またしても放課後、教室の中で苦悩に苦悩を重ねていた僕とお茶丸。悩んだ末に机に何回か頭を打ち付け、できたたんこぶを擦る僕は新美の言葉に受け答えをしていく。


「タチハル? たかが合コンの場所を決めるだけでしょ? それなら、悩むことなんてないじゃない」

「いや。だって悩むでしょ。えっ? 高校生が普通の居酒屋で合コンしろと!? 居酒屋なんてほとんど行ったことねえよ!」

「じゃあさ……焼肉屋は? 食べ放題で安く済む店は?」

「へっ?」

「だから。焼肉屋はどうって? 空手の打ち上げでよく使うから。ワタシ、色々知ってるよ。どうなの! タチハル!?」


 新美の押しが強くて、僕は言葉が詰まってしまった。その代わり、お茶丸が「けどさ、けどさ」と反論を始めている。


「告白に見合う場所なのかな? 告白そっちのけで食べることに集中したらダメじゃん?」


 異論に顔色一つ変えず、新美はポットからお湯を注ぐ。今日はレモンティーらしい。彼女は僕達の分まで入れてくれたようで、教室の中に甘酸っぱい香りが漂っていた。


「あのね、食べ放題に行ったら元を取らないと気が済まないの?」

「あっ……そうか」

「まあ、そこは追及しないでおくけどね。安心しなさいな。ワタシも告白ができる状況を作れるように意識するから」


 そうか。分かったぞ。その発言については僕が反応した。


「最悪、了承しようとしないキサラギくんをその手でしめるんだね?」

「タチハルはワタシをどんな人間だと思ってたの!? じゃなくって……とにかく打ち上げ経験者として色々するからってことよ」


 そうか。とにかく、新美に焼き肉店の整備と司会進行を任せておこう。じゃあ、僕達やることないね。新美に任せて後で逃げようか、と卑怯な考えを思い付いてしまったが。

 そうはいかない。新美のサポートをしていこう、と思う。

 レモンティーを味わい、口の中を浄化する。飲むと爽快なこの味が。体が温まりつつも、心が冷静さを取り戻す。

 ふぅ、もう一息。頑張りますか、と司会進行の準備に対し、新美に案を伝えてみせた。


「まあ、始まりはやっぱクラッカーとか鳴らすの?」

「他のお客様の迷惑になるから、それはなしよ」

「じゃあ、自己紹介して、王様ゲーム?」


 僕の話ににやりと笑う新美。


「古い考え方ね。でも、いいんじゃない? ワタシもそれが妥当だって考えてたし」

「あっ、待て! ちょっと待て。それにすると、変な命令してこない!?」

「大丈夫。タチハルがキサラギとボーイズラブでああだこーだする以上は何もやんないからさ」

「安心できるか!」


 危なかった。きっと新美に全部任してたら、とんでもない後悔をするところだ。アイツのことだから、キサラギくんの関係はなくても、僕とお茶丸の関係をいじってくるだろう。「キスしろ」とか言われたら、その場で泣くぞ、僕。


「まあ、じゃあ、そこまでやらないわよ。というか、アンタ。インチキしなさい」

「ん? イン……チキン? 鶏肉?」

「違うわよ! タチハル。アンタにインチキやれって言ってんのよ」


 インチキ? 昨日それで怒られたばかりだと言うのに、またやれと?

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