第14話 知ってる? 恋一つ分で人間四人分のエネルギーが生成されるんだよ?(嘘)

 僕はフミに尋ねてみた。


「どういうこと? 知ってるの?」

「はい。コーラとか、ジュースのカロリーゼロバージョンに謳われてるゼロは、本当はゼロじゃないんです。飲料会社がサバを読んでいい部分なんです。ほら、今、新美ちゃんが飲んでるレモンジュースのビタミンCみたいに」

「これ?」


 僕が新美の手にあるシュワシュワの炭酸レモンソーダを指差すと、フミはすぐさま首を縦に振った。


「あれってよく広告で聞きません? ビタミンCのレモン五十個分とか」

「うん。よく聞くな。すごい量だと思うけど」

「本物のレモン一つ分のビタミンCがレモン四つ分って言われるの知ってます?」


 知らなかったし。あまりピンと来ていない。唐揚げに付属しているカットされたレモンを見比べて、更にわけが分からなくなってきた。


「ええと、一つ分ってどれ位?」

「広告で一つ分と表記していいのは二十ミリグラムのビタミンCだそうです。本物のレモン一つの全体に入ってるのは、実は八十ミリグラムのビタミンC! なので、レモン一つのビタミンCはレモン四つ分になるんですまぁ、本当にレモンの果汁自体には二十しか入ってないとかありますが、まあ難しい話は放っておきましょう」

「売るためにレモンジュースの会社はそうやって。色んな話で着飾っているのか……。ただ格好つけるために着飾ってる新美とは大違い」


 そう話した瞬間、新美がびちゃっとカットされたレモンを握りつぶし、果汁を僕の目に突き付けてきた。


「あら、手が滑っちゃった。ごめんなさい!」

「新美、何をする!? はぁわわっわわわわわわわわわわわ!? 今レモンを取って、僕の目に近づけてきたよね!? 今のどこに滑る要素があったか教えてくれるかな!?」


 レモンで非常に染みる目を手で抑え、堪えてる僕に代わって話の続きをお茶丸が聞いていた。僕は話どころじゃないけどね!


「ねえ、で、フミちゃん。その、何がゼロカロリーと似てるの?」

「あっ、そうだ。レモンで話がちょっと逸れ、犠牲者が一人出ましたね。まあ、いいです。で、ゼロカロリーもサバを読んでいいって言って話、付いていけてますか?」

「何とか大丈夫。ええと、広告とかで言ってるゼロカロリーはゼロカロリーじゃないってことだよね?」

「そうです。百ミリリットルの中に五キロカロリー未満なら、ゼロって言っちゃっていいんです。ゼロカロリーと言われてるジュースの中に入ってる甘さは糖尿病の方のために作られた人工甘味料が使われてるとか」

「あ……」


 ここからお茶丸の声が聞こえなくなっていた。たぶん、フミの知識に圧倒されているからであろう。僕も同じだ。目の痛みにもう声も出ない。


「だから、少ないと言ってたくさんがぶ飲みなんかしてしまうと、気付かない間に激太りしていたってこともあるんですよ」

「あははは……」


 今度は新美が震える笑い声。


「お茶は同じゼロカロリーでもそういったジュースより、カロリーが低いのでジュースより飲みすぎを気にする必要はありませんよ。高級茶はカロリーが高いのもありますが、まあ、普通にごくごく飲めるお茶はカロリー少ないので問題ないですよ!」


 僕が目を開けた瞬間、話が終わっていた。新美の前を横切って、お茶丸の手が伸びた。彼女の手はフミの両手を掴んでいた。


「フミちゃん……! 知識もあるし、緊張もしてとちることもないだろうし……最適じゃない! 私に代わって『放課後お茶会部』の部長になってくれない!?」

「へ?」


 次に僕がボソリと呟いた。


「ヤンデレっ子だと思ってたけど、全然イメージ違ったか。普通に博識な女の子じゃないか」


 どうやら、その声が彼女に聞こえていたようで。


「へ? へ? へ? ちょっと待ってください。ちょっと待ってください! えっと?」


 フミが非常に困惑した声で叫び、僕は頭の中で今の状況を整理した。

 確か、フミは僕達の部活を「恋愛相談部」と認識していた……正しくは僕達がさせていたのだ。その事実に驚くのも無理はない……と思ったが、彼女にとって衝撃だったのは僕の考え方のようで。


「ヤンデレ……病んでるってどういうことですか?」

「ううん。自分の目的のためなら、人を犠牲にしても構わない……あっ、フミのことを言ってるわけじゃないからね!」

「でも、そう思われてたってわけですよね」

「ま、まあ」


 フミが持ってきた癖の強い御守りだらけの手紙を見て、そう思ってしまった。


「そうですね。あれのせいですか……確かに、ですね」

「ごめん」


 お茶丸と僕は彼女に向って、頭を下げておく。それからお茶丸はこそっと「部活の話はまた……後でね」と付け加えていた。

 フミも柔らかい笑顔を見せてくれる。どうやら、納得はしてもらえたみたいだ。

 疑念が消え、ついでに僕が感じていた目の痛みもすっかり消え、本格的な宴が始まった。



 肉も沢山食べ、ジュースも飲みたいだけ飲めた。腹を擦り、もうそろそろ入らないなと思った時だった。


「で、そろそろよね。タチハル」


 深く重い新美の声がこちらに飛んでくる。


「……ああ!」


 その言葉が合図となっていた。僕とお茶丸の目的がついに果たされる。「合コンの王様ゲームでフミとキサラギくんをくっつけてしまおう」作戦がたった今、開始した。

 新美が僕を含んだ四人の前で王様ゲームを進めていく。その後ろで指揮を執るのが僕の大仕事。なんて格好いい言い方だけど、要するに新美のインチキに間違いがないよう、サポートするだけだ。お茶丸はそのインチキがバレないように、キサラギくんの気を逸らす役。考えようによってはお茶丸が一番大変な仕事をしているかもしれない。


「何か変な命令されなきゃ、いいけどな。ってか、どこまでが許容範囲なのか、きっちり決めておかなければ、だよな」


 キサラギくんはその点を問題視しているらしい。気持ちは分かる。王様ゲームで社会的に抹殺させられることだけは避けたいだろうから。そこをお茶丸が安心させる。


「た、たぶん……大丈夫って言うか。まあ、今後の生き方に支障が出ない位の命令で。それでいて、王様の言うことは絶対だよ。ええと……今回は脱衣、目潰し、犯罪はナシだよ……」

「目潰しって……今回はって……新美の王様ゲームって、前はどんな王様ゲームをやっていたんだ?」


 キサラギくんの視線が僕の方にも向く。僕は顔を動かし、彼の目を見ないようにしておいた。そこは僕やお茶丸の沽券のためにも聞かないでくれ。土下座でも何でもするから。

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