第15話 インチキの行方

 最初に問題となるのは、王様ゲームの棒を取る順番。そこがインチキの鍵である。だから棒を取る前にルーレットを用意しておいた。新美のスマートフォンにインチキ用のルーレットアプリを取ってある。


「じゃっ、ルーレットやるわね!」


 普通のルーレットアプリと違うのは、止めたい時に本当に止めたい場所を選ぶことができること。画面に映ってるルーレットのカラーとかは人生ゲームによく使われるものと同じ形で、インチキだとバレる心配はない。

 ただキサラギくんから疑念を持たれるとしたら、一つ。


「取る順番なんて、決める必要あるんだ?」


 お茶丸がハッとして、口を動かすもそれは声にならなかった。僕が何かフォローの言葉を出そうとするも何も見つからない。そこをフミが何とか話してくれた。


「ど、どうやら、前にその順番でもめたことがあったようですよ」

「ふぅん」


 そう言えば、フミがキサラギくんと言葉を交わすところをここで今初めて見たような気がする。合コンのはずではあるけれど。カロリーの話をした以降は、男子は男子、女子は女子でまとまって話をしていたから。

 そう喋った彼女が意外にも照れずにキサラギくんと話ができていた。一定時間、同じ空間にいたからなのだろうか。恋している人の照れ方などあまりよく分からないので考えるのはやめておいた。

 ルーレットの方は順調で。最初にフミの名前が止まる。彼女には一応、このインチキのことは伝えてある。彼女にはこの後、傷のない割りばしを一本取ってもらうだけでいい。

 次は、お茶丸、新美、僕。それでキサラギくんと全てが巧くいく。インチキはバレなきゃ、不正行為じゃないんだよ……とは誰の名言だったかな。


「じゃあ、これ。フミちゃん」

「あっ、では最初に取らせていただきますね! こういうのってわくわくしますよね。宴会の醍醐味って感じがするんです」


 お茶丸が鞄から出した割りばしの入った箱。そこから棒を取っていく。後は失敗しなければ、何もかもが成功すると思ったのだけれど。一つ。問題点がある。

 割りばしを取る時に気が付いたのだが。僕の取る予定のものに傷が付いているか、どうか分からないものがあった。故意に作ったものなのか、それとも事故でできた傷なのか。

 お茶丸や新美は傷のある割りばしを取っている。フミの方は、傷が異様に浅いものを持っていた。まさか、傷の付け具合を間違えたのか。確かに傷が大きすぎると、キサラギくんに「これインチキじゃないか」と思われてしまう危険性があった。

 だから傷の付け方には注意を払ってとお茶丸に話したが。そうか。間違えたか……。どうしようと思っていたのだけれど、キサラギくんが「まだ悩んでるのか? どっちでもいいだろ。たぶん、王様はもう残ってねえんじゃねえか? 早く早く」と急してくるものだから、傷があるように見える物を取ってしまった。

 話では、フミかキサラギくんが取るはずの割りばしに書いてある番号は一、か四。そのどちらかが書かれていなければ、計画は万事巧くいくと思うのだ。思い切って、番号を確かめた。


『四』


 とんでもなく不吉な数字が赤いペンで記されている。

 新美は自分のインチキがとんでもないってことになっているのに、楽しそうな声を上げた。


「やったぁ! ワタシが王様だ!」


 インチキしてると分かってるから、とてもわざとらしく聞こえてくる。ほんの少し、インチキの共犯として「あっ、コイツ、インチキしてますよー。ダメですよー」って言ってみたくなってきた。

 って、そんな意地悪を考えてる場合ではない。僕が四を取ったことをどうにか伝えなくては! 早く伝えないと、確実にこの計画が空中分解する……! ついでに暴力ヒロイン、新美に「アンタのせいで折角インチキしたのが無駄んなっちゃったじゃない」と怒られ、僕の体自体が空中分解するかもしれない。

 とにかく、今するべきことはキサラギくんにインチキしてることがバレないように、インチキが失敗していることのアピールだ。片目を閉じて、合図を送る。そして、心の中で最大限に念じていた。

 間違ってますよ。番号、間違ってますよ。更に言えば、君の思考自体間違ってますよ。

 片目を四回ウインクしているが、新美は気付いちゃいない。それどころか僕の合図に笑顔で応じている。これだったら、失敗した時のサインをもっと考えて、示し合わせておくべきだった。

 そうやって後悔しても遅い。何とか、新美の動きを止めなくては。そうだ。トイレにでも誘おうか。


「新美、トイレに行きたいんだけど」

「そんな。盛り上がるところなんだから。一回位、我慢しなさいよ」


 ダメだ。っていうか、何でこんな時だけ鈍いのだ。普段なら、鷹が獲物を狙うかのように素早く僕のインチキを見抜くのに。どうして、自分のインチキに対するミスは見抜かない。

 あれと同じか? 推理小説とかで、探偵は犯人のことをきっちり推理するが。探偵は自分の恋の完全犯罪がミスだらけっつうのに気付かないって奴か!?

 自分でもよく分からない例えを出してしまったが、そんなことを考えてる場合でもない。

 お茶丸にこそっと言ってもらう方法も思い付いたが。お茶丸は何か「王様じゃなかったぁ!」って謎の演技で頭抱えて、こちらの合図を受け取れる状況ではない。悔しがらなくていいから。そこまでやると却ってわざとらしすぎるんだよ。

 キサラギくんは気付いてないから……いや、インチキがそもそも失敗してるから気付かれなくても意味がないんだけどね!


「何だ、この茶番……」

「どうしたの? 君、さっきから顔が忙しいよ」


 何も知らないキサラギくん。


「顔が忙しいってどういう表現……だよ。な、何でもないから……」


 僕の心がぼわぁっとなって、大変なことになってることも気付いていないであろう。

 新美はこのまま続けていく。彼女は立ち上がり、「じゃあ、行くよ!」と大声を出して。


「まず、二番と三番! 互いが好きって言って、付き合いなさい! 一番と四番はどちらかの家まで一緒についていって送ってあげること! 以上、この合コンは終了とします!」


 ……二番と三番? 元々は僕が二番か三番を持つはずだったのだが。二番を持っているのは、フミだった。


「へっ、チャナちゃん?」

「フミちゃん?」


 新美は口を閉じたまま、首を傾ける。いや、疑問があるのは僕の方なんだよ。二番と三番にも命令をするなんてインチキの筋書きには聞いていないぞ。

 そんな僕はツッコミを入れる気力もなく。新美の方はプライバシーか何かの関係で前言撤回ができなかったらしく。「お、王様の命令は絶対!」と言いやがった。コイツ、まじかよ。プライド守って、友達捨てたよ。

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