第13話 お茶会部の存在意義!?

 お茶丸のことを考えた僕はすぐさま知識を披露した。ちょうど手にしていたウーロン茶が入ったグラスがある。焼肉なら、ウーロン茶だし。話の選びは間違っていないと思う。


「ああ……それなら、ウーロン茶について……知ってること」

「それって中華のお茶だろ?」

「うん。そーだね。後、ウーロン、漢字で書くと、烏と龍っていうのは茶葉が烏のような黒であの、龍みたいに曲がりくねった形をしてるからだって!」

「中国の竜って言うと、細くてひょろひょろしてる奴だろ? へぇ……ウーロン茶の茶葉なんて見たことがなかったからなぁ……で?」


 話の続きを笑顔で求められても、困る。こういう明るい人達って最後にオチとか求めてくる傾向があるし。ウーロン茶は緑茶と同じツバキ科の茶の木からできていると言ってもへぇと言われるだけであろう。実際、知識があったとしてもお茶の味が一気に変わるわけでもあるまいし。

 これ以上、ないなぁ。


「後、1970年代後半に歌手が広めて有名になったお茶でもあり……後、コレステロールを下げるって言うのは周知の事実だよね。だから、焼肉で飲むわけだし」

「ほほぉ……」


 聞いてくれてるけど、きっと内心「はやく終わんねえかな、この話。退屈で退屈で死にそうなんだけど!? お前を蒸してウーロン茶にしてやろうか!?」と思ってるかもしれないんだよなぁ。今までの経験則からして、明るい側の人間は絶対そう考えてるに違いない。

 助けを求めてみるが、お茶丸は「その関係のことは全く詳しくないアルよ。話できないアルよ」という感じで白目を向いていた。司会進行役の新美はフミと楽しく話をしているようだが。話されているフミはこちらに嫉妬の眼差しを突き刺していた。

 半目開きでこちらの様子を確かめているフミ。彼女はきっと僕とキサラギくんが話をしていることが羨ましいのだろうか。だったら、話し掛けてくれよ。僕は一人でスマホゲームでもやって、肉を待ってたいだけなんだからさ!

 そんなところでやっと、店員が肉とそれぞれサイドメニューを持ってきた。肉とテーブルを埋め尽くすような大量の唐揚げとサラダ。タッチパネルで注文するタイプの食べ放題なのだが……誰が注文したかは予想できた。

 お茶丸、注文の数を初っ端から間違えたな!? まあ、いい。それが救いだ。キサラギくんと新美が肉を焼き始める中、僕は唐揚げにがっついた。口を火傷しようが、喉に詰まろうが問題はない。そのまま食べて食べて食べるだけだ。


「大丈夫か?」


 肉の香ばしい匂いの中、僕はサラダにも取り掛かる。チーズや塩だれのかかったキャベツを味わっていく。ここが焼肉店だということを忘れそうな位に広がる野菜の渋みや苦みは、ウーロン茶で喉の奥へと流し込む。そういや、お茶って奈良漬けと一緒にいただくと非常に甘味が濃くなって、苦手な人でもパクパク食べれるんだよな……。

 この知識は人に話して、喜ばれるようなことだったのだが。キサラギくんとの会話から逃げるために野菜を食べていたら、そんな話をすることも忘却の彼方に消えていた。


「ほら」

 僕が野菜ばかりを食べていることを気にして、お茶丸が肉の入った容器をこちらに渡してくれた。


「あ、ありがとう」

「大量に頼んじゃった奴は私が解決しちゃうから、立春くんはもっとお肉とってもいいんだよ?」

「いや、大丈夫大丈夫。唐揚げは大好物だから。食べてて、苦になんないんだ」

「そう?」

「ああ」

「ありがとね!」


 肉を取ってくれたことと大量に唐揚げとサラダを注文して、僕をキサラギくんとの会話から逃がしてくれた恩がある。感謝の意味を込めて、笑顔で頷いた。

 彼女はさっと下を向いてしまったけれど、笑顔のつもりでまた変な顔を見せてしまったかな……。お茶丸の隣にいる新美から「おかしい顔……見てられないわ! 下種すぎる! 警察呼びましょ!」なんて言われると嫌だし、元の顔に戻しておこう。そして、もう一度唐揚げを見つめて食いついた。

 それでも途中でキサラギくんの質問が来てしまった。


「お茶を飲んでていいことってある? 栄養ってさ、他の健康食品でも摂取することはできるよね?」


 ……そういや、お茶を飲んでることで何の意味があるのかな……。確かに僕達「放課後お茶会部」じゃなくても、「放課後ゲーム部」でも「放課後パーティー部」でもいいんだよね。何故、お茶である必要があるのか。

 その質問に回答するとしたら、非常に慎重にならなければいけないような気もしたが……。


「……緑色が楽しめる」

「……? ん?」


 食べるのに夢中で適当な言葉を出してしまった。質問をしてきたキサラギくんの口から出たのは「は?」や「へ?」ではなく、疑問符をそのまま声に出したと思える音だった。うん、僕がキサラギくんの方でも同じ反応をしたかな。


「じゃあ、青汁でもいいじゃんか」


 僕は唐揚げとレモンをそのまま口に含んでいたため、答えることはできなかった。代わりに返答したのが、お茶丸だ。彼女は苦笑いしながら、僕に「もうー、もっとお茶のいいところ言ってこーよー」と話していた。続けざまにキサラギくんにこう伝える。


「私の答えとしては静岡県の名産だからってところかな。今いる場所をもっと広めていきたいってのもあるし……そ、そう! カロリーも低いし!」


 途中で新美が「その分、スナック菓子を食べてるからねぇ」と茶化しを入れた。お茶丸は肩をぴくんとさせ、慌てて反論する。


「そ、その分、お得だし。体にいいし! 消化にいいし……!」


 そこでキサラギくんは鋭い指摘を入れる。


「じゃあ、ゼロキロカロリーのコーラとか、ジュースってあるよな? それって、どうなんだ? それならお茶より甘いんだし、カロリー低いだろうし、楽しめないのか?」


 今度は僕や新美も固まった。やはり、お茶じゃなくても良いのだろうか。お茶の存在意義、自分達が今まで信じてきたものが分からなくなってきた。

 そんな由々しき事態の中、顔色を変えなかったものが一人。フミだ。まあ、お茶を嗜んでいないのだから当たり前なのだが。彼女はきょとんとした様子で「何を騒いでるんですか? そんなことで」と説明する。目線がお茶丸や僕の方を向いているのはキサラギくんを見て、照れないためか。

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