第7話 (ある意味)命を懸けたゲームをしようよ!
僕はお茶丸の「甘いのが元々の抹茶か、苦いのが元々なのか」という質問に対して、回答する。
「抹茶はさっきも言ったように苦いんだよ。飲む人をちょっと選ぶかも」
「あっ、そういうことはお茶を改良して、甘い抹茶にしたんだ……苦いのが嫌だから、そのまま甘いものに……」
お茶丸の言葉に僕の中で忘れられかけていた新美が人差し指を立てていた。新美が偉そうにちょっぴり知識を語り始める。
「外国人は緑茶が苦い、渋いからって砂糖を中に入れるって聞くわ」
その言葉に目を見開いたお茶丸は彼女自身の意見を熱弁した。
「じゃあ、やっぱり同じだよ。好きな人のために自分を変えることさえできれば、受け入れられるんじゃないかな? あっ、だとすると、やっぱりその人のことを知ることって大事だよ。知らないと、本当に結ばれる縁が心の底にあったとしても、そのまま別れちゃう。そんなのもったいない!」
……確かにそうだ。何度も出逢いを重ねるのもいいけれど、まずは今、自分と出逢っている人のことを考えるのも大切なんじゃないかな、って思えるんだ。お茶丸の言う通り。そのためには相手を知ることが重要だ。
「となると……やっぱり、キサラギくんから少しでも興味を持つような女性。憧れてる人みたいなのでもいいんだ。フミの告白を成功させるためにはフミ自身がそういった人に変わればいい……その情報を手に入れるために……どうしてもキサラギくんから聞き出すことが必要だ」
つまり、この中の誰かがキサラギくんに好きな人を聞きに行く。何を言われるかは分からない。僕達「影のもの」にはその荷は重いと思うから。僕とお茶丸は新美に頭を下げていた。
「やらないわよ?」
……何をのたまうのだ、新美。僕が頭を下げた意味は何だったのだ。
すぐさま僕は反論を吠えた。
「ん? だって知り合いなんでしょ? クラスの明るいリーダー的な存在だろ? 絶対できるでしょ?」
「タチハル、バカなの? ワタシのことを全く分かってない。逆にこっちはこっちで、変に恋バナをしちゃうと学校新聞のスクープにされかねないの! 絶対、新聞はこう書くわ! 『憧れの人を聞いてる新美! キサラギに気があるのか!?』ってね。逆にこういうのは目立たない方がいいのよ」
「うう……!」
彼女の正論らしきものに口が止まった。確かにキサラギくんと新美の間にそういった関係ができると、こちらにもフミのとばっちりが来るかもしれない。「もっと早く告白させてくれれば、キサラギくんはあたしのものだったのに!」と。
そうなると、僕か、お茶丸か。無理を承知で新美を行かせるか。
首に指を当てて悩む僕と三杯目の紅茶を飲んでいる新美にお茶丸が提案した。
「何か、勝負をして決めようよ。ここはお茶会。どうせ何かを決めるなら、ゲームか何かで盛り上がりましょうよ?」
それならと、僕も口を動かした。
「で、ゲームとして何をやるかって話になるんだが……くじ引きだと」
僕が出した考えを新美が一瞬で否定する。
「つまんないのよねぇ。あみだくじでもする?」
逆に新美が出した考えも僕が否定した。
「待て! あみだくじにすると、当たりとかハズレ以外に別の文字が書かれかねないんだ。前に僕、街中で三人彼氏持ちをナンパしろとか引いちゃったけど、あの罰ゲームは滅茶苦茶すぎるだろ! 三人全員にフラれ、その上彼氏にめっちゃ睨まれて、傷付いたんだけど! 誰だ!? あれ書いたの!?」
「そういや、そんなことあったわね。書いたのワタシよ」
「コラ!」
ということで下手にくじを作るのは、なし。ゲームか何かで決めたいところではあるけれど。何がいいのかが全く思い付かない。トランプやかるたは僕が苦手で、勝敗は目に見えている。
テレビゲームも同じくだ。いや、これは僕が下手というわけではない。新美が強すぎる。格闘ゲームにしても、彼女は自分のキャラに指一つ触れさせず僕達に勝ってみせるのだ。彼女の攻撃が当たれば一度、僕やお茶丸のゲームオーバーは確実。その上、お茶丸とは雲泥の差で。お茶丸は自分のキャラの位置を忘れ、自ら穴や溶岩に飛び込んでゲームオーバーなんてことも少なくはない。
お茶丸がこの中で一番弱いと言える。
「ゲームはどうかしら?」
「これも新美が強すぎるだろ。実質、新美が僕かお茶丸、どっちに罰ゲームをやらせるかを選んでるようなもんだって」
「じゃあ、コントローラー置いて十秒間ずっと煽っててあげるわよ」
「余計に質が悪い。民度というものはないのか? 道徳というものはないのか? まあ、そんなもんなくたって生きていけるけどさ!」
とにかくテレビゲームでの勝負は断らせてもらいたい。お茶丸がミスしてゲームオーバーになるよりも早く僕が新美に狙われ、ゲームオーバーになってしまえば……びりっけつは僕なのだ。
危険は極力避けたい。ちなみにイカサマを使って勝つという手もあるが、バレると後始末が大変だ。何せ、新美の鉄拳制裁は悪を許さない。
そんな新美が僕に向かって、口を尖らせる。
「さっきから文句ばっかり言ってるけど、それならアンタも案を出しなさいよ」
ムムム……! 何も言い返せない。新美にこうも言われ、口答えすらできないという事実がちょっと悔しい。
そんな中、お茶丸がぽつりと発言した。
「新美ちゃんも私達も知らなくて、それでいてルールが分かりやすいゲームか競技、だよね?」
ムムム……? その言葉にはピンと来た。分かりやすくて「放課後お茶会部」としてもぴったりなゲーム。そう言えば、利き茶なんて競技があったな、と思い出した。
利き茶はお茶の匂いや味、見た目、食感、注ぐ際に出る音など五感をフル活用してお茶の種類を当てるゲームだ。お茶のことを調べてる途中で知ったのだが、何しろ一人でやるのは虚しいし、そもそも利き茶ができる程にお茶の種類を用意できるのかという問題もあった。やはり、高校生のお小遣いにも限りがあるわけで。
ただ今ならできる。当然、一人ではない。そして、お茶の準備については近所のお茶屋さんが解決してくれた。五種の利き茶セットなんてものが売っていたのだ。煎茶、深蒸し茶、茎茶、玄米茶、番茶の五つ。何個か興味本位で買ったものがあった。
本来なら産地なども当てたりするという何ともベリーハードな勝負になるのだが。
「利き茶……ってゲーム知ってる?」
予想通り、二人共「知らない」という反応で首を横に振っていた。誰もが初心者であれば優劣は出ないはず。この勝負が一番だと思うと伝え、お茶丸も新美も異論を出さなかった。
「じゃあ、それでやってみよ! 盛り上がりそうだね!」
「ふんふん、面白そうね!」
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