義母に全力で恋をする!!

紫煙

第一章

第1話

ープロローグー


――あれは、よく晴れた銀世界の中だった。


「○〇君! 大好きです! 付き合ってください!」


 大人びたダッフルコートを着て、目の前で顔を赤くしてそういってきた女の子は同じ幼稚園の年長さんで、確か名前はすみれちゃん。

 園内美少女ランキングなるもので1位にも輝いたことがあるらしいその子は、子役もやっていてお遊戯会にテレビカメラが来たこともあった。

 

 告白してきた彼女を見て、周りでほかの男たちが寒い中作ったその手に持つピッカピカに輝いた泥団子を落として砕け散っていったのを、今でも覚えている。ただそいつらはそんなことは一切気にした様子もなく、こちらをぽかんと見つめていた。

 先生たちすら、色めきだって子どもそっちのけでこっちに視線を送っていた。



「〇〇君! 付き合って!」

 そう告げてきたのは確か、中学で美化委員をしていたタッキーこと滝沢さん。

 普段は髪の毛をおさげにし、眼鏡をしていたTHE普通な女の子で言い方が良いかはわからないが目立つようなタイプでもないそんな彼女。

 あれは確か体育のプールの時。金曜の三限だったかな。


 『謎の美人現る!』と軽く事件になり、体育教師兼生徒指導として全生徒に目を光らせている教師でさえ、滝沢さんがおぼれたものだとばかり考え、水偵を10分もしていたほどだ。あの時は確かプールサイドに普通に座っていただけだった。 

 要は何が言いたいかといえば、間違いなく美人。

 そんな隠れ美人が告白をしてきたんだ。

 ただ、確かその時も俺は…


――――――


 パーカーのポケットの中に手を入れ、中身を確認する。

 手にちょっと吸い付くような程よい反応が返ってくれば、それは小さな箱だと認識でき、まだちゃんとそこにあることに安心できる。

 箱の中身は買ったときから開けていないから、いつの間にかどこかにということもなく安心していいはずだ。


 サイズもばっちり。

 寝ているときにネットの方法である、糸を使って測ったから大丈夫のはずだ。


 ――この日のために頑張ってきたんだろ俺!


 このために、この日のために犠牲は果てしなかった。カラオケの誘いやボーリング、映画に漫画に図書カード。失ったものは戻ってくることはない。ただ後悔はしていない。


――やるしかない!


 箱を掴んで、その手をパーカーから引き抜く。


「これ指輪!」


 バイト代を筆頭にお年玉、断ってもいまだ渡されるお小遣い。そのほとんどを使って用意したのだ。

 クラスの女の子にだって聞いた。

 恥ずかしい奴だと思われたのか、赤い顔で教えてくれた学生の範疇のそこそこいいらしいブランドの指輪。


「はいありがとう。」


―よし。受け取ってもらえた。


 一瞬、この事実だけに喜びが込み上げてきたが、次に来る感情は別。

 受け取ったときのそれは思い描いたような感動的な返事ではなく、学校のお便りを受け取ったときのような淡白な返事。


「えっと、その」


 伝えたいけど流石に言葉では伝えたくはない。この気持ちを汲み取って、受け入れてほしい。幼稚な気持ちだが言葉で言えば二分の一の選択肢を強制することになるから言いたくはない。

 そんな思いを察してくれたのか、ようやく開けられたケースのフタ。


「うん、薬指にはまるからつけるね」

 ジッと指輪をみて、色々な指に軽く試してみてからそういわれ、指輪は右手の薬指へと吸い込まれていく。

 いや、左手の薬指が狙いです。なんて言葉は言えない。


―無念


「ありがとね、遊太」

「うん」


 予定は変わった、目的は達成しきれなかった。それでも嬉しそうに言われれば頷くしかないじゃないか。

 これが惚れた弱みというやつなんだろう。


 俺は、月島遊太は恋をしている。


 長い長い、一方通行の恋だ。

 一般常識では、決して射程圏内に入れてはいけない女性を対象とした、長い長い初恋だ。


――恋をしている。


 おれを一人で育ててくれた義母に。

 

 沙月姉ちゃんに、俺は恋をしている。

 

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