S2 第二話

「ええ! この子たち持って帰っていいの!」

「受付の人が、『持って帰ってくれないとかわいそう』だって」

「すごーい! ちょーサービスじゃん!」

 

 一緒に帰ろうね、と二匹のライオンを抱きしめながら声をかけている姿は、普段のどこか無理をしているときよりも年相応に見える。


 それだけで、今日ここに来た意味がある。


 ただこれはまだ始まったばかりに過ぎない、それにいまだにダブルだったという事実が頭の片隅で荒れ狂っている。


 というのも数分前。

 

 まさかのダブルベットという衝撃で動揺した心を落ち着かせようと、二匹のぬいぐるみをダシに受付まで駆け抜けた。


 そして受付につけば、ついさっき案内したばかりの俺が再び現れたわけで、少し驚いてはいたが、流石はプロで一瞬だけ表情を変えただけですぐに接客モードに切り替え声をかけてくれた。


「えっと、あのぬいぐるみって」

「......ラッフィーとジェシーラはお持ち帰りいただけますよ」

「あ、そうなんですか?」


 もはや慣れているのか、食い気味に返されてしまった。


「あのふたりは、お二人と一緒に帰るために準備させていただきましたので、連れて行ってあげてください」

「ありがとうございます」

「はい! またお困りの際はフロントか内線でどうぞ」

「...はい」


 丁寧に対応され、笑顔でそう返されてしまえばそこで試合終了に。

 

 その間わずか二分。


 そうなってしまえば、財布も携帯も鞄ごと部屋に置いてきたいま下手なところに行くわけにもいかず部屋に戻れば、時間はかからなかった。


―――――――


「遊太、ベット窓際にする?」

「え?」


 頭の中で荒ぶる感情をどうにか収めようとしていたときに、いつの間にか二匹をもとの位置に戻した沙月姉ちゃんが突然そんなことを聞いてきた。


「いや、なんで?」

「ラッフィーとジェシーラを戻したなんとなく」

「....ああ」



――このバカライオンどもめ


「後、荷物広げたりとかコンセントのあれとか、景色とか」

「景色?」

「ほら、窓からモノレールが!」

「おお」

「ね! 遊太窓側にすれば?」

 

 すごくうれしそうにそういう沙月姉ちゃんを見ると、俺もなんだかんだ楽しんではいるがそれ以上に楽しそうだ。


 それこそ、景色を楽しんだりするほどに。


「俺のほうが間違いなく荷物少ないから反対でいいよ。 窓際のほうがテーブルとかあるから使いなよ」

「えぇ、いいの?」

「いいよ」


 せっかくなのに、と言ってるが俺としては何よりも沙月姉ちゃんに楽しんでほしい。


 

「じゃあ、そろそろいく?」

「そうだね。 あ、ちょっと待って」

「ん?」

「少しだけチェックね」


 そういって部屋に備え付けられたドレッサーの前へ。

 

 流石は天下のテーマパークのホテルだからなのか、そういう仕様の部屋なのかは知らないが、部屋にしっかりと用意されたドレッサー。


 その前で、少し気になるところがあったのかバックからポーチを取り出しメイクを始めているのだが、


――気まずい


 なんとなくメイクをしている姿は見てはいけないような気がしてここ何年も見ていなかったのに、予期せず見てしまった。


 かといって、じゃあ待ってるとも言いずらいなんとも言えない空気感。


 

――とりあえず

 

――隠れラッフィ―でも探すか。


「隠れラッフィーいないかなー」


「え!? 私も探す!」


 わざとらしく口にだし、沙月姉ちゃんには申し訳ないが無視して逃げるように壁に目を走らせた。


 


 





 

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