S2 第一話

「あ、見てみて! ラッフィーだよ遊太!」

「ん? あぁ」


 花の咲いたような、やけに浮足立ったような声を掛けられるが返せるのは曖昧な言葉。

「ええぇ!? もっと感動しなよ」

「いや、まぁ」


 心底、それはもう『マジ!?』的な感じの声と視線をいただくがそれでも返せるのはそんな言葉でしかない。


 形容するなら付き合いたてのカップルとか、マンネリのカップルとか、初心ななんちゃら、優柔不断な男、といったように男側の俺に責任があることこの上ない例しか浮かばないし、実際にはその通りなのだが許してほしい。


 俺にだって言い分があるんだ。



 視線の先でこれでもかと腕をフリフリしながら指さされたその先には、見事に昨日の居酒屋で検索したデフォルメライオンのラッフィーの姿。


 くりっとした目はこちらを唯々見つめてくるだが.......


 なぜかこのデフォルメキャラに小馬鹿にされているような気がする。


 いや、もちろん俺の考え過ぎに他ならないのだが。


「・・・・・・・」


 じっと見つめてみたって、鎮座するラッフィーは答えてくれない。


――ぬいぐるみだし。


 昨日見たのは居酒屋でスマホで急いで画像検索したほんの数分。

 というか一瞬ともいえるのだが、どんな形であれ映像としてみたものを実物としてみれば感動する。


 本当にいるんだ、とか言葉足らずではあるが凄いの一言に帰着していくのだが、


「やっぱ、ディズニーホテルは凄いね」

「そうだね」


 それをこのキャラクターの本来の拠点で見れればなおさらだろう。


 そう、ディズニーのキャラなのだからディズニーの関係には絡んできてもおかしくない。

 むしろほほえましいし、喜ばしいことであるのだが、ではなぜ俺の心をあらぶらせるのか、その原因は、


「ねぇ遊太! 私ジェシーラの方で、遊太がラッフィーの方ね」

「......はい」

「テンション低いーー!! あ、ジェシーラがよかった?」

「いやラッフィーで」


 沙月姉ちゃんは1つ大きな間違いをしている。

 否、大きすぎて一つに感じてしまうが間違いはいっぱいある。


 いつまでたっても沙月姉ちゃんの中では俺が幼稚園児のままなのか、部屋が相部屋なこと。

 ただ、いくら好きな人だといっても同じ部屋で俺が寝れないというレベルのことはない。


 では何なのか。


 ツインとダブルという言葉を知っているだろうか。

 パッと聞けば同じように感じるだろうし、ほぼ同じなのだが違う。

 ツインインパクトといえば、①と②だし。

 ダブルインパクトだと①+②なのだ。

 

 古今東西、ホテルで使われる言葉はツインがベット二つ。

 ダブルがベット一つなのだ。



 ここまで言えばわかってもらえるように、


「このラッフィーとジェシーラってお持ち帰りしていいのかな?」


 ここに一人、わかってない人がいたのだ。


「うん、フロントに聞いてみるね。」



 少しでもこの気持ちを収めるために、俺は電話ではなく直接フロントに駆けだした。


 


 ただ、好きな人と突然同室、同ベットと知らされたホテルの一室。


「シーツかわいい!!」

「う、うん」


 ベットのシーツに描かれているそいつの姿に感動できる人間はどれほどいるだろうか。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る