二章 プロローグ

―派手だ


夜だというのにまだしっかりと残る熱さが体にまとわりつく正に熱帯夜のようなそんな頃合いに心を奪うのはそんな感情。


まだ7月だというのに、俺の知る限りで言えば熱帯夜。これから先、真夏の存在が恐ろしいことこの上無いのだが、今はそんな不安や、一日の積み重ねの汗でべたつく体も、張り付くシャツも今は些細なことにすら思えてしまう。


目の前で、実際には二百メートルは離れているであろうそれは、距離をおいてもなお巨大に見える大きな城。


城といっても、戦国時代を超えてきたような瓦葺の仰々しいような奴じゃなくて、凡そこの国には存在しえないのに、この場所にだけはその存在が当たり前にすら思わせる西洋城。


煌びやかなライトアップがされたそれを多くのカップルや家族連れ、女子のペアや男旅のグループなど、多分見えてるだけでもいろいろなグループがいて、見えてないところにもいろんなグループがいるということが容易に予想できる。


それほどまでに人が大勢いるのだ。


それもそのはず、いわばこの魔法の国の、魔法が溶け始めるそんな頃合い。


「あ、あのね遊太!」


目の前で声を高める一人の女性。


呼ばれているのは俺で、距離的には大きすぎる呼び声だがそれは周りの喧騒も相まって、間違いなく俺にしか向けられていない。


「どうしたん、沙月姉ちゃん?」


そう、何を隠そう沙月姉ちゃん声だ。


たとえ俺に向けられてないとしたってわかる、そんな声。


普段のどこか優しい顔とは違って、目じりをはっきりとさせた表情。


それだけで真剣な話を切り出すというのはわかる。


日にち的には大したことはないが、時間とロケーションは最高。


自分の中でいろいろとプラスの方の予想が流れるなか、


「遊太、私ね.........」



想像もしないようなことを彼女は言ってのけた。






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