S2 第三話

「あ、ポップコーンあるよ! ポップコーン!」


 そういって、屋台というにはあまりにもコミカルで、リアカーというにはあまりにもポップな移動式ポップコーン機のほうへとかけていく。


 一部の子供たちにとってはアトラクションよりもこっちのほうがメインな子もいるのかもしれないそれは、キャラクターを模したポップコーンケースが割高なのに不思議な国マジックで安く感じるというなんとも不思議な魔力があるのだが、


「あ、メロンソーダフロート味だって! おいしそう!」


ーーいや、コンビニであったら絶対買わないだろ


 流石にこういったところで売ってる分、味は保証されているのかもしれないがそれでもだ。


 ただ何よりも今言いたいのは、


「沙月姉。 まだ入って五分だから」

「........ええぇぇええ」

「ジェットコースターでぶちまける気か」

「でもさぁ」


「お客様。 こちらストラップとロックがついていますので首からかけて両手で抑えいただければ大丈夫ですよ」


「あ、ほらお姉さんもこういってるよ!」


 流石に売り子のお姉さんも百戦錬磨で見事なセールスを見せてくれるが、ここで立ち止まるわけには、


「あ、ラッフィ―のケースだよ!」

「こちらのケースは、先週からの期間限定で味はキャラメルかバター、ミックスナッツフレーバーになります」

「うわぁ、絶対おいしいやつぅ」


 きっとランド史上でも、入口早々の移動ポップコーンショップでここまで食いついた人はいないだろう。


「じゃあ、このラッフィ―のケースのやつでいい?」

「あ、ダメだよ! お金なら私が出すから」

「いいって、買わせてよ」


 沙月姉ちゃんの予想外の食いつきのあたりでカバンで発掘しておいた財布を取り出し、ファスナーをおろせば、先ほどまでの子供らしさから一変して保護者感を出されてしまうがここまで欲しがっているならプレゼントしたいと思う。


「うーん、わかった。 あ、お昼は任せてね!」

「そんな張り合わなくていいから」


 どうしても保護者としての面が見えるが、俺としては対等に楽しみたい。

 ただ、そうそう割り切れるものでもないのでそこはあきらめるとして、


「じゃあ、味どうしよっか」

「ん? 遊太の好きなの選んでいいよ」

「いや、いいって。 沙月姉ちゃんの好きなので」


 ここは遠慮しなくていいのに。


「じゃあ、メロン.........はダメなんでしたっけ?」

「そうですね..........うーん、じゃあおかわりは普通の味になっちゃいますけど、入れときますね」

「いいんですか!?」

「はい! せっかくですから楽しんでください!」

「ありがとうございます!!」


 なんとも優しい配慮をされて、沙月姉ちゃんも嬉しそう笑顔を見せる。


 それを見れるだけで、2.5野口の価値はあるだろう。



「えへへ、遊太ありがとね」

「いいって」

 嬉しそうに、ラッフィ―の絵が一面に描かれたそれを抱きしめて隣を歩かれれば、それだけでこっちもうれしくなる。


「じゃあいこっか!」

「おう」


 開幕戦で捕まっている俺たちを周りは見ていたからか、後ろで手を振ってくれているお姉さんのもとにはお客さんが寄っていくのが見える。


「あ、メロンの味する!」

「早いね」

「あったかいうちがおいしいんだよ!」



 あったかいメロンソーダフロートは果たしてどうなのかと思うが水を差すわけにもいかない。


「ほら、あーん」

「え?」

「あーん」


 やたら嬉しそうな顔をして、突き出された手には少しだけ緑がかったようなポップコーンがつままれている。


 いや、意外に毒々しくはないからいいんだけどそうじゃない。


「ほら!」

「えっと」

「ほーら!」

「ん......うまい」

「でしょ!」


 グイっと押し込まれて正直味もくそもなかったが満面の笑みを浮かべられてしまえばそれでじゅうぶんだ。


 とりあえず、


「じゃ、アトラクションいくか!」

「あ、ちょっとまって」

「ほら遅れるぞ」


 これ以上はドキドキ過多なのでアトラクションに行くことにした。



 



 

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