第18話

Side 関口 佐奈


「んーーーー.........」

 晩御飯もそこそこに切り上げて戻ってきたマイルーム。

 遊太来た時よりかは大分遊びを封印した部屋を見渡して唸り声をあげてベットに飛び込めば、包み込まれるというよりかははじき返されるようなマットレスのカウンターを全身に受けるがそれは気にしないことに。


「...大丈夫」

 明日のテスト対策はたぶんバッチリだし、遊太のおかげで点数を取ることはできると思う。

 だから、別にその点に悩みなどは特にない。

 

 ただ全く別のことで私の頭を惑わしているのは、


「あれって、沙月さん好きなのかな?」

 つい数時間前に見た光景だった。

 あの不思議な距離感の二人。沙月さんと遊太の様子が頭から離れてくれなかった。

 別に二人のことが嫌いなんていうことは一切ない。

 少なくとも今は。


 ただ、めちゃくちゃぶっちゃけていいなら、最初の頃は遊太のことは嫌いだった。


 それが遊太に伝わっていたかどうかは知らないが、嫌いだった。



 私と遊太の付き合いは小学校三年生ぐらいから。

 まだまだクラスの中で女子と男子なんて垣根ができる前に、たまたま男子グループと女子グループが公園で一緒になってそれでって感じ。


 でも最初はなんていうか、女慣れしてるっていうか慣れが凄いっていうか女の子たちからも人気で、男子たちからも人気のあるようなそんな感じがあってそんなに好きじゃなかった。

 後になれば居酒屋の関係もあって付き合いがうまかったのかもしれないけど、私以上に私の友達と友達の関係を持っていた遊太が嫌いだった。


 そして本当に嫌いになったのはあの時、今だからわかるけど遊太の両親が同時にいなくなっちゃったとき。


 みんなが遊太中心だった。

 先生たちは遊太の心配ばかりして、両親もどこはかとなく遊太のことばかり聞いてきて、そのくせ遊太は毎日学校をだるそうに、つまらなそうに過ごしていて嫌だった。

 今思えば、最低な逆恨みだけどあの時は遊太に何が起こっていたかなんて知らないからしょうがなかった。


 ただ、あの日、小学校四年生も終わりを告げて春休みだった時。遊太のことをようやくしったのだ。


「謝れ!」

 両親と一緒に近所へ買い物に出ていたときだった。

 間違いなく、自分の買い物ということはなくてがっつりおつかいという感じの荷物を持った遊太が、目の前の大人相手に怒鳴っていた。


「沙月姉ちゃんのことを悪く言うな!」

 普段の沈んだ様子からは到底予想できない姿で、そう言い放った遊太に、目の前の大人は何かを怒鳴り散らして去っていくのが見えたが悔しそうに遊太は泣いていた。

 理由はわからなかった。なんで遊太がそんなに声を荒らげて大人に対面していたのか。

 ただ、『沙月姉ちゃん』そういった人物がだれなのかは何となくわかっていた。

 だから不思議に思って、隣で固まっていた両親になにかあったのかを聞いたのだ。

 その場では両親は教えてくれなかった。

 ただ、家に帰ったときにリビングに呼ばれ二人から今何が起きているのかの説明を受けた。


 冬の、校長先生の飛び込んできたあの日に、遊太は両親を失ったこと。

 死んじゃった遊太の両親の代わりを引き受けたのが沙月さんだということ。

 本当はいけないけど、大人たちがよくない言い方をしていることなど。


 もともと沙月さんが結構イベントごとに現れていたのがあってあまり違和感もなかったけど、今思えば頻度が上がっていたとは思う。

 そしてそれを知ったときに、自分が情けなかった。

 唯々遊太のことも知らないで、一人で勝手に嫌っていたのだから。


 だから私は、他の子たちが遊太を悪く言っても遊太の友達であろうと思った。

 そこからだろう。一度大きく開けてしまった距離を詰めることに意識を割いたのは。

 今思えば、何様なんだって話にはなるけど、今は間違いなく同情なんて気持ちは一切なく遊太のことを大事な友達だって言える。

 小学校も高学年になったころ、何度か家にお邪魔したときに沙月さんにも一緒に遊んでもらった。

 だから、二人が凄く仲のいい家族で姉弟みたいな距離感だっていうことは良くしているのだが、

 

『えへへ、おかえり遊太ぁ』

『ありがとね、遊太』

 思い出すのは、遊太にべったりな感じの距離感。

 まちがいなく寝ぼけていたのや、遊太曰二日酔いで頭がうまく回らなかったり、甘え症になっているのだとかが原因だろは思うが、


「まさかね」

 頭の中でありもしないであろう予想を出し、それにまた蓋をする。

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