義母に全力で恋をする！！

第19話

　普段のホームルーム教室と形が全く教室。

　ただそれでも、所々に普段の教室との違いを見せる別のクラスの教室。

　壁に貼ってある配布物やクラスの展示物に、なんとも不思議な感覚に襲われるが今、これにかまけている場合ではない。

　その理由なんて言うのは言わずも、黒板にデカデカと書かれた

『国語科　追試　2学年』のパワーワード。

　よくよく見渡してみてもこの教室にいるのは佐奈と、一輝とあと７人ぐらいの選ばれた戦士だけだ。

　見た目がガチガチのギャルっぽかったり、ヤンキー然だったり、ちょっと不思議ちゃんぽい子とか、明らかやる気をなくしきった男だったりと、十人十色に人がいるがその人数決して多くはない。

――いってしまえばは今回のテストはそんな難しくなかったってわけか

――何やってんだかな

　今思えば、もっとやりようはあったはずだが、勉強に割くはずだった時間を別のことに持っていったからこそ贈れたものがあるからこそいまいち後悔ばかりというわけではない。

　ただやはり、そのせいで沙月姉ちゃんとのお出かけに行けなかったという事実もあるわけで、なんともどちらにも振り切れていないのだが、

「お願い、小松原様！」

　怨敵、小松原に手を組んでガンかけてしている佐奈。

　その姿を見れば、この期間も無駄ではなかったのだろう。

　まぁその実、普段からちゃんとやっとけばいいのだがそれを持ち出すのも違うだろうし。

「小松原様ぁぁぁ」

　延々と続く祈祷はおおよそ必要ないことにも思えるのだが、ないよりはマシだろう。

　祈祷を続ける佐奈に、なにやら今更教科書を開く一輝もいるのだからどっちが正しいとは言えないのだが、こちらによそ見してサムズアップをしてくる一輝を見るにきっとこちらは大丈夫なのだろう。

　他のクラスの生徒たちも各々が残りの数分に時間をかけていく中、時計は正確に時間を刻んでいく。

　そして黒板上に鎮座する、大きな某時計メーカーの時計が、ガコンッ！と音をだし長針を12に当てはめたとき、

「それでは始め」

　16：00。　国語科中間考査追試は始まった。

　バッ！っと机の上の解答用紙をめくるなんていうこともなく、もはや清々しい気持ちでゆっくりとめくれば、

——これ対策でやったところ

　ベネ○セも驚きの出題率を誇る問題用紙がそこにはあった。

　まさかここまでとは。小松原に図書館でこの辺をやっとけと言われたところは見事に出題され、ほのめかされていた範囲も全て的中していた。こうなってしまえばもはや消化試合のような感覚で、そこまで解答用紙に夢中ということもなくなりふっと視線をあげれば不思議と視線の合った小松原はこちらに軽いサムズアップを一つ。

——いいやつかよ

　今度、なんか自販で奢ってやろう。

　そんな決心を旨に秘め、答案用紙にペンを走らせた。

　追試という特性上、途中退室にはかなり寛容的だ。

　人数が少ないのもあるが答案用紙を渡せばその場で採点され結果が分かる。

　そこで必要点数に満たなかったものには、尋常じゃない課題量、文学の巨匠夏目漱石全集の読書感想文という事実上の処刑宣告が出されるわけなのだが。

　もう２人ほどそんな悲惨な末路の者たちを見届けたが、肩の落ち方は半端なかった。

　かくいう俺に至っては、答案自体はだいぶ前に終わっているのだが採点には向かわずに席で大人しく時間の経過を待っている。

　なかなかに早い段階で書き終え、小松原も、来れば？的な視線を送ってきたがシャープペンで軽く前の席の佐奈を指せば納得したように肯き、ニヤニヤ顔に。

　明らかに余計なことを考えているのだろうがそんなことは断じてない。

　意外にも寡黙という感じを受けていた小松原が、浮ついた話とかが大好きなタイプなのだろうと、まさかの追試中に知る羽目になってしまった。

　ただそれを否定しに立ち向かっても、起立＝退席の法則の前では学生はなんと弱いことか。

　ガタン！

――お？

　答案用紙の端っこに絵とも呼べないような絵をかいて遊んでいれば、目の前で起きる机を引いた音。

「お願い！　小松原せんせ！」

「おお、来たか」

　飛び出すように出ていった佐奈が答案用紙を小松原の前に置けば、暇を持て余していたその体を起こした。

　いや、さすがに体を椅子に預けすぎだろ。

「んー、設問１。　ここと、ここは違うね」

「えー」

「設問２はしっかりできてるね」

「お、マジ！？」

　こっちにブイサインを送ってくる佐奈に、前をむけとジェスチャーすればおとなしく視線を戻した。

　設問１は漢字、設問２は古文の単語変換。どうやらそこは取れたらしい。

　設問ごとの一喜一憂は後ろ姿と、漏れ出す悲鳴と感激で伝わってくる。

　たぶん大丈夫、俺自身プリントの端っこに一喜一憂から大体の点数を当て、簡単な得点計算をする。

　キュッ！！！

　最後だろうか、赤ペンが大きくその航跡を残した音と共に佐奈がこちらを向いた。

　目には涙をためて、

「遊太ぁ！！！　ありがとぉー」

「おーよかった」

「ありがとぉ」

「ちょ、抱き着くな！」

――てか、小松原も注意…

　そんな視線を送ったが、”よくがんばったなぁ”と涙目で佐奈の答案用紙を夢中になって眺めている。

――あんたも苦労してたんだな。

　もはや俺が小松原に同情してしまった。

　そこからは流れ作業で、採点を任せて合格の２文字を貰う簡単な作業。

　作業のはずだったのだが、

「はい、桜井君は課題ね」

「うそ」

「ばかずき」

　余裕ぶって本当に勉強をさぼった人間が１名。

　帰らぬ人となったのであった。