第4話・忍子チーム始動!
忍子チームが発足して、国語・社会・体育教師の小池麻里(こいけ まり)が顧問として加わった。
この麻里先生も早月の生まれ育ちで、教師として早月中学に赴任してきて4年目、25才の若く美しい女性である。早月生まれで、体育の教師でもある麻里先生は、もちろん抜群の身体能力を持っている。
チームリーダーの美結が、捜査方針を伝える。
「まずは事件の発端の高山市の骨董屋を皆で見てみたい。麻里先生に車を出して貰って、明日の朝出発するわ。泊る事になる。費用は校長が出してくれる。それとこれからは、探索に必要なものを常に持つようにね」
「美結さん、どんな物を用意すればいいですか?」と、春彦が聞く。
「筆記用具、カメラ、時計、タオル、ナイフ、バンドエイド、ライト、飲み物におやつかな。出来るだけコンパクトにする事。カメラと時計は携帯電話で良いね」
「了解、リーダー」
春彦と安子の目が、ひと夏の冒険の期待で輝いていた。
この二人は、早月地区の隣・小曽平の寄宿舎に住み込んでいる。
そこは、他の山村留学の生徒が10人ほども住んでいて、棟違いで教職員や村を訪れたゲストなども泊まれる施設がある。
村営で食事も村の衆がしてくれるし、コンビニや買い物を出来る店も隣接している村一番の快適な所だ。
言わば、早月村の選手村ならぬ、ゲスト村と言って良い。
翌朝8月15日朝6時、忍子チームは高山市に向け出発した。
早月村と高山市は山を隔てて隣接して近いが、その間は険しい山々に遮られている。車で行くとなると、一旦、日本海沿いの富山市に出てから南下する遠回りの道しかない。
もっと、北アルプスの麓のここ早月村は何処へ出るのも、大きく遠回りしなければならないので、さしたる事ではない。
元々、富山(市)と高山(市)はその近さから、密接な繋がりがあって、富山と高山を入れて[飛騨地方]と呼ばれるほどである。
大回りして片道約120km、車で4時間ほどの道のりを、麻里先生の1BOX車に乗せて貰ったチームは、その長い道中にあれこれと相談をした。
こんな時に頼りになるのが、万能でずば抜けて頭の良い安子だった。自然にリーダーの美結の補佐的な立場に安子がつく。
「麻里先生、その骨董屋の中は見られますか?」
「骨董屋の店主は意識不明の状態よ、息子さんが後始末に来ていて、今後の事を決めるそうだけど、まだ何とも言えないわ。校長が高山警察所の知り合いに頼んでいるので、口添えはしてもらえるとは思うけれど・・」
8月13日、一昨日に事件が発覚したばかりなのだ、現場の様子は分からない。
かといって、日にちを開けると、すっかり片付けが終わって見るべき物が無くなるのだ。そこに人がいる内に、現場を見て話を聞かなければならない。
「一番知りたいのは、その仏像についてだけど、骨董屋を店主一人でやっていたのだったら、意識不明なら無理ね」
安子が呟く。
「他にどんな事を調べる? 手分けして出来ないかな」と正宗。
「現場の状況・店の様子・店主の性格・友人・趣味・仕入れ先・近所の評判、凶器や目撃者などかな? でも一番知りたいのは仏像の入手経路かな・・」
春彦がスラスラと口にする。これには皆・目を見張った。
「おめえ、見かけによらず、よくそんなに思い浮かぶなあ?」
呆れたように、正宗が言う。
「えっ、・・そうか、皆は知らないのですね、俺の趣味はケンカと読書なんだ。特にミステリー物が大好き、あの名探偵の金田一耕助に憧れているのですよ」
「そうなの・・」
見直したような目で、安子が見つめる。
春彦は、その目を意識して照れくさそうに、
「でも、実際に捜査するのは始めてですよ」
「もちろん、皆始めてよ。でもその知識、大いに期待しているわ。金田一春彦くん」と、美結が応答して
「出来るのは現場の状況と店の様子ね。現場に入れるのなら全員で入りましょう。店の雰囲気や品揃えを見て話もみんなで聞く。近所の聞き込は私たちでは無理ね」
と的確な指示をする。全員が頷いて方針は決まった。
校長がリーダーに任命しただけあって、美結はリーダーシップに長けているのだ。
「金田一少年、了解しました」春彦が嬉しそうに答える。
「私、スケッチした仏像の絵、持ってきたわ。何か役に立つかも知れないと思って」
安子がバックから、畳んだスケッチ用紙を取り出す。すると、俺も俺もと、春彦と正宗が同じ様に出した。
「ふふふ、みんな気が合うね。でも私は写真に撮ってきたわ」
美結がスマホを取り出す。
「あっ、その手があったか、いいな、スマホは・・」まだガラケーの正宗が悔しがる。
「ガラケーでも取れるじゃない。でもリーダーはさすがね」
安子が、感心して言う。
「へっへ、」
得意そうに鼻が伸びている美結。
基本的に天然で調子に乗りやすいのが、美結の欠点で可愛いらしいところでもある。
「でも、一番絵が上手いのは、安子だな」
絵を見比べて春彦が感心する。安子の絵は丁寧に細かい所まで描かれている。
「正宗も、線が荒いけれど雰囲気があるね」
美結の言葉に頷く二人。
正宗の書いた絵は、武道の達人らしい潔さがあった。
正宗は、普段は安子や春彦の様に細かい事を気にしないが、武道の腕は「近年に無いほどの腕効き」と大人達から噂される程のもので、いわゆる武闘派だ。
武闘派の正宗は、自分の感性を大切にする。よって正宗の書く絵や文字を見て、教師も唸る時があるのだ。
「それにしても、私の絵は、おおざっぱで、全く似てないな・・」
美結は、絵が苦手だった。
「俺も絵は苦手だけど、美結さんのと、どっこいかな」
遠慮なく、春彦が言う。
その言葉で、ちょっと美結が凹むと、
「良いじゃない。美結は他が凄いのだから」
安子が褒めると、たちまち美結の機嫌は直る。単純なのだ。
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