第10話・佐々成政公の埋蔵金


「その成政公ゆかりの仏像は、価値のある物なのですか?」

 安子が尋ねる。


「そうか、それも知らなんだか。佐々成政公の埋蔵金の話じゃ。埋蔵金は、鍬崎山にあるとか。七カ所に分散して埋めて、それぞれに監視役の家臣が残った。とか色々言われているが、あの仏像に、宝の在処の絵図が隠されていると言う者もいるのじゃ」


「佐々成政公の埋蔵金」

 これもこの地方では、有名な話で誰でも知っている。

 その話は、一般的にはこう言われている。


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 本能寺の変で織田信長が亡くなり、覇権を争う羽柴秀吉は北陸の柴田勝家を戦で破り織田家を代表する勢力になっていた。

信長の次男信雄は、徳川家康と組み秀吉と争っていた。佐々成政も信長から受けた恩に報いようと信雄方に着いたが、秀吉方の加賀の前田利家と争う事になる。

そんな中、信雄が勝手に秀吉と和睦してしまい、驚いた成政は軍の動けぬ冬に、事情を聞くために雪の北アルプスを越えて、三河の徳川家康に会いに行ったのだ。

そして、その道中にお家再起のための軍資金を隠したのだという。その量たるや半端じゃない、七十七個の壺に黄金を入れて隠したのだと言う。この埋蔵金はまだ見つかっていない。それ故にいまだに埋蔵金を求めて山に入り帰ってこない者が後を絶たない。と言われている。

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佐々成政公の真冬のアルプス超えから、埋蔵金の話まで、話が思わぬスケールの大きさになって、さすがに皆は、おし黙って想像した。


「それは、・・仏像に埋蔵金の絵図が隠されてある。と言うのは、信憑性があるものなのですか?」

 やっと冷静になった麻里先生が聞く。

「昔の事は解らぬ。実は、この斉藤家も、宝を守るために残された成政公の家来だ、という言い伝えがあってな。それで今でも極楽寺を管理している訳なのじゃ」


「えー」

 斉藤家が佐々成政の家来だとしたら、埋蔵金の話がにわかに現実味を帯びてくることになる。


「じゃが、宝なんぞは、元々はどうか知らぬが、今は無い。あるはずが無い」

 斉藤老人は言い切った。


「それは、どのような理由で?」

 高地が尋ねる。

「考えて見ろ。佐々家の再興を期すか、軍資金として埋めた宝じゃ。その望みは数年で潰えた。ならば、そのままにしておく筈が無い。それと、その後に入った前田家は、執拗に佐々の殿様の評判を落とす工作をした。或いは、前田家が掘り出したかもしれぬ。いずれにせよ、今に残っている筈が無い」


 雪の北アルプスを越えて、浜松の家康に面会した佐々成政は、秀吉と和睦して九州の領主となり、その国で国人の反乱の責めを負わされて切腹、そしてお家断絶。アルプス越えから僅か4年のことであった。


「素朴な質問ですけれど、そんな莫大な金を隠すほど、成政公は軍資金を持っていたのですか?」

 安子が聞いた。

「それじゃ、あの時代は戦国の世、ひといくさをするのも、佐々家など五十万石もの領地の兵を動かせば、今で言う金額で数十億円は軽く掛かる。それにうち続く戦乱と災害で、領地替えで来た越中は荒れ果てて、復興には大変な金が必要になった。それで、成政公は越中の金山の開発を進めて、莫大な金を手にした。と言う事なのじゃ」

 膨大な宝は、実際にあったのだ。


じっと考えていた春彦が、

「加東が埋蔵金や金脈などを探していたって、あれはひょっとして・・」

 と呟いた。

「そうじゃ。あの仏像に宝の在処を記した物が隠されている。という事を、今でも信じて、ここら辺りにも、うろつく者がいるのじゃ」

 斉藤老は、迷惑そうに言った。


「そしての、あの事件で村の出の加東政吉らしい者を見た事は、皆知っている。警察にもそう届けた。何年か後に奴が捕まった事も知っているが、この事件の事は口を割らなかったと思えるわい。そうか奴が出て来て、また人を殺めたか・・」


「はい、3年ほど前に出所しています。その時から仏像を預かっていた袴田を探していたのでしょう。だが、もう袴田の所には仏像は無かった。仏像の在処を袴田に拷問して吐かせた加東は、翌日には早月中学校に行って、仏像を盗み去ったと見ています」


「そうか、早月村の学校に仏像は行ったか、と言う事は、この子供らが奴を捕まえると言う事じゃろ」

 老人は断定した。


「それは・・」

 高地は戸惑った。

そこまでは考えてなかったのである。


「ここも早月も古い土地じゃ。長い歴史の間に起こった事を考えると、あの村の者らの事は大体想像がつく。富山藩も恐れて干渉を避けてきた者たちじゃ。仏像がそこへ行きたがった事も解るわい」


「でもお爺さん、早月村にあった仏像は盗まれてしまったのよ」

 美結が反論する。皆・同じ気持ちで頷く。


「そこじゃ、その佐伯校長がそんなに間抜けだと思うか。そんな事で厳しい世を生き抜いて来れると思うか? 儂はそう思わない、一族を導くのは、並大抵の事ではなかろう。先の先まで読んでいる筈じゃ。帰って聞いてみると良いわ」

 斉藤の言葉を聞いて、考え込んだ子供達。


やがて、正宗が麻里先生に聞く。

「先生、そうなんですか?」

「私は、皆と同じ。何も知らされてないの。本当よ」

 

「ところで、加東の見分け方など、知りたいのですが」

 美結が、斉藤老人に願った。

「そうじゃのう、政吉は背が低かったのう」

 斉藤は、妻と思える老女と目を合わせて、考えながら言った。


「背高は、お姉さんと同じくらいじゃったかの、それも30代くらいまではだけど、今は背も縮んでいるじゃろうな」

 と老女は、身長150cmの美結を見ながら言った。


「顔は、とにかく油断のならない肉食の小動物の様な目をしておったな」

「あれは、テンの目じゃなあ」

 と老女も同意した。


「ここにおる里江の母親・はつの仇を討ってくれ。早月の子供らよ、頼んだぞ」

 と、斉藤家の老人が頭を下げた。


「わかりました。どこまで出来るか解りませんが、頑張ります」

 とリーダーの美結が答えて、斉藤家を辞した。


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