第11話・追跡者の気配


「どう他に調べたい事はある?」

 斉藤家を出たところで、麻里先生が皆に聞く。

「ええと、亀谷事件の背景は、佐々成政の埋蔵金の在処が、仏像に記されていると思った加東が、袴田を誘っての犯行だった」

 と考えを纏める様に、春彦が言い出した。


「その時に顔見知りの加東がいる事を、村の人たちも目撃して警察にも知らせた。2年後に別件で加東が捕まった事は知ったけれど、ここ亀谷事件には進展は無かった」

 と安子が続ける。

「そこまでは、ここの村の人たちは知っていたけれど、僕らが今日ここに来て、彼らが知らない事を伝えた」

 と、春彦が引き継ぐ。


「それは、①加東が任期を終えて出て来た事。②この事件の仲間だった袴田を拷問して仏像の在処を知った事。③袴田はその前に仏像を佐伯校長に譲った事。④加東と思える者が、早月中学から仏像を奪った事。⑤亀谷事件の片割れだった袴田が、私たちに事情を知らせてから亡くなった事かな」

 安子が整理して言う。


正宗と美結は、まとめてくれた二人の発言を聞いて、二人がチーム員で良かったとしみじみ思った。

二人とも、直感的で、結構おおざっぱな性格なのだ。


「ありがとう。お陰で解りやすくなったわ。今の問題は、袴田が何処にいて何を画作しているかだと思うの。どう?」

「うん、そうだと思う。だけど斉藤さんの言った事も気にかかるわ。一度帰って校長に報告する必要があるのじゃないかしら」

 安子が考えながら言う。


確かに早月の者は、先まで読んでいる筈というのは気にかかる。

「じゃあ、これから早月村に帰るのでいい?」

 麻里先生が聞く。

美結が皆の顔を見回して、異存がない事を確認して、

「はい、先生お願いします」

 と答えた。


車を止めてある道路まで降りる途中、美結が鋭い声を出した。

「正宗!」

「ああ、感じる」

 正宗が、小さく答えた。


 そのただならぬ様子を見た高地が、麻里に聞く。

「何ですか?」

「見張られているの。私も僅かに感じる。あ、そのまま前を見て歩いて、キョロキョロしないでね」

 安子と春彦も、麻里先生に言われて、見渡したい誘惑を押さえて意識して前を向いて歩く。


「取りあえず車に戻ろう」

 美結の指示が出る。

 車に戻ると全員が乗り込んだ。


「俺はまず、結果を署に報告する」

と高地は、自分の車に入る。

「加東はこのあたりにいる。と言う事ね」

 麻里が言うと、安子が付け足す。


「佐々成政公の埋蔵金は、弥陀が原、鋤崎山、などどれもこの近くよ。このあたりに潜んでいる事は納得出来るわ。土地勘も充分だし」

「でも、何か引っかかるな。斉藤さんの言葉が・・」

 春彦が頭を捻りながら、次々に呟く。

「もし、学校から盗んだ仏像から、何も出なかったら、加東はどうするだろう?」

 その春彦の言葉に、皆は考え込む。


「仏像が学校から盗まれてから、2・3日経つ。仏像に何かあるか・ないかはとうに解っているだろう」

 と、正宗。


「だとしたら・・」

「だとしたら、骨董屋と、ここと、学校をもう一度探す」

 と断定して安子が言う。


「斉藤さんに、又襲われる可能性が有ると、伝えた方が良いかな?」

 と、春彦。

「そうしておきましょうか」

 と麻里が答えたところに、高地が麻里の車に、乗り込んできた。


「係長に報告すると、それならどうも早月村が、事件の解決に重要な役割を果たす様だと、私はこれから早月村に行く様に、命じられました」

「そうなの、じゃあ一緒に帰れるわね。それとね・・・・」

 と話合った事を、高地に伝えると、

「よし、俺から斉藤さんに伝えるよ」

 と早速、電話して伝えてくれた。

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