第14話・校長の推理


「なら、順を追って話そう。まず佐々成政公が越中を治めていた時は、天正という年号じゃ。西暦なら1585年ぐらいかのう。関ヶ原の戦いの15年ほど前になる。我らの先祖がこの地に入植したのは、1640年ぐらいじゃ。その時はこの地は、すでに前田藩となっていた。しかし、少し年代は過ぎていたが、成政公の時代の事は充分推測出来た。


その当時、ご多分に漏れずにここ越中・富山の地は、戦乱で疲弊していた。おまけに、この大きな北アルプスを源とする河川が氾濫して、富山は泥だらけの作物も禄に取れない土地と成り果てていた。


 成政公は入国しざま大規模な河川の改修を複数着手した。戦の備えも怠らないでじゃ。さしもの蓄えもあっという間になくなった訳じゃ。金山の開発をしたと言うが、それでも同じことじゃ。


成政公の様に万兵を動かすには、膨大な戦費が必要じゃ。今の金に換算すれば数十億は軽く掛かろう。もちろん、いざと言う時に備え、一戦・二戦するほどの蓄えはあったじゃろう。

しかし壺49個にいれて埋めたなどは大嘘じゃよ。それは、たぶん膨大な力を持っていると思わせる為に、成政公御自身で流されたものじゃろう。


噂に信憑性を持たせる為に、少しの金は埋めたであろう。そして、家臣に命じて守らせた事も事実かも知れぬ。その後、成政公は秀吉と戦って敗れたにも拘わらず肥後の大名となった。たぶん、その時に持っていた軍資金を秀吉に渡して、赦免されたのであろう。


他国の大名になったにも拘わらずに、埋められた金を取りに来なかったのは、それ程の手間を掛けるに値しない金額であったのだろう」


佐伯校長の長い説明を聞き、皆黙って考えていた。


「どうじゃ、納得したか。まだ疑問があるなら聞くが良い」


「後に佐々の家臣の家系が、黄金を隠した地図を持っていて探し当てたと聞きますが、」

 麻里先生が尋ねる。


「うん、確かに少しは埋めたのであろう。個人としてはそれなりの金額であるが、それを発見しても即、自分のものになる訳では無いのじゃ。この日本ではのう」


「校長先生、あの仏像に何が入っていたのですか?」

 リーダー美結が、改めて尋ねる。


「おお、あの仏像にはの、古い紙に[朝日でて、夕日かがやく、亀谷に、一つむすび、一むすび、黄金いっぱい、光かがやく]と書かれてあった。埋蔵金を巡る有名な詞の鋤崎の部分を亀谷に直したものじゃな」


「それは、7カ所に埋めたと言われる埋蔵金の在処の一つが、亀谷にあると言う事を示す物ですか?」

 麻里先生が驚いて聞く。


「そうとも言えるし、そうで無いかもしれぬ」

「どういう事ですか?」

 今度は高地が尋ねる。


「あれは、ちょっと後の時代に作られたものだろうと思う。恐らくは、斉藤氏の先祖が仕込んだ物と儂は睨んでいる」


「へえ、斉藤さんの先祖が何故?」

 思いもよらなかった事を聞いて、驚いた美結だ。


「平たく言えば、地域活性化じゃなあ。ほれ、アマテラスの女神がお隠れになった「天の岩戸」。日本に一つしかない筈のその場所が、全国至る所にあると言う、あれと同じじゃ」


「天の岩戸とおなじか・・」

 と、春彦。


「それと、佐々成政公が敷いてくれた善政を、忘れたくない心も加わっての事だろう。或いは、斉藤氏は佐々家の家臣の家系かも知れぬ」

 確かに、世間的に佐々成政の評判は良くない。それも、権力者によって意図的に貶められている感じが強い。だが、富山の県民は未だに、成政公の善政を慕っているのだ。


「でも、埋蔵金が少ししか無いのだとしても、加東はそう思っていない。既に二人も死んでいます」

 美結が元の問題に戻した。


「そうじゃ、加東は莫大な金があると信じている。それに、雪が溶けて埋蔵金を探す期間もあと2ヶ月ほどじゃろう。後の無い老人でもある。必死じゃ。まだまだ犯罪に走るかも知れぬ。どうするな、ニャンコチーム」


 校長の問いに、再び4人が目を合わして確認してから、美結が答える。

「盗んだ仏像に何も無かったとしたら、加東は、骨董屋・亀谷の斉藤氏・学校をもう一度探すとの結論を出しました」


「ふむ、そうだろう」


「埋蔵金を埋めたとされる場所は、亀谷集落の周辺が多いけれども、早月にもありますね」

「おうある。ここから少し下流の宝島という妖しげな地名の所じゃ」


「とすれば、加東はどちらかに潜んでいると思われます。斉藤さんの家を出たところで、私たちを監視する目を感じました」

「ふむ、見張られていたか・・」


「念の為に高地さんに頼んで、斉藤さんに警告をして貰いました。あとで、骨董屋の息子さんにも、同じ様にお願いしようと思います」

「ほう、よう気が付いたな」


「残る一つ、この学校に仏像から出たものが有ると、噂を流します。どうでしょうか?」

「おう、良い案じゃ。そうするが良い。じゃがな、加東が来た時の事を、充分に予測しておくのじゃぞ」


「はい、チームで相談します」

 チームで出した案を、承諾された美結が頭を下げて答える。


「美結、加東一人で来ると思わないで、銃を持ったならず者を雇うかもしれないわ。加東は指名手配されて、後が無くなったのよ。必死だわ」

 顧問の麻里先生がアドバイスをする。


「はい、肝に銘じます」

「佐伯校長、私も仕事を与えて下さい」

 と高地が願うが、


「いや、高地君は警察管じゃから、儂の権限外じゃ。独自の判断で動く様に」

 とあっさり断られた。が、高地も仕事だ、

「では、独自の判断で、ニャンコチームに加わる事を、お願いしたい」

「それは、リーダーに願え」


 高地は、美結らに向いて、

「私は警察管だ。銃も持っているし、いざという時には逮捕も出来る。徹夜での張り込みも慣れている。どうだ、チームに入れてくれぬか。いると便利だぞ」

 と、大きな顔で売り込んだ。

高地にとっても、ここでチームと別行動しては、職務を遂行できない恐れがあり、必死だった。


 それを聞いた全員がゲラゲラと笑った。

「いいわ。麻里先生と同じく顧問と言う事で、宜しく頼みます」


「よっしゃー」

 と嬉しそうな高地。

「じゃあ、高地さんは骨董屋の息子さんに電話して、注意喚起して下さい。それから、加東の情報や写真が欲しいです。学校のPCやFAXを使って下さい。麻里先生はその案内をお願いします。それと、村の地図があったら欲しいです。後のメンバーで、本部を作りましょう。」


 リーダーの美結がテキパキと皆に指示した。

「校長先生、本部を何処にしたらいいでしょうか?」

「そうだな、徹夜での見張りを考えると、仮眠が出来る宿泊室が良いだろう」

 その言葉で、全員が校舎に移動した。

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